ロードバイク乗りという生き物は、不思議なくらい洗車前後で愛車への感情が変わります。
洗う前は「最近ちょっと変速重いな」くらいの雑な扱いだったのに、チェーンを磨き、フレームを拭き、ホイールの汚れを落とした瞬間から急に態度が変わります。
「えっ……お前こんなカッコよかったっけ?」
ここから始まります。
洗車後限定の“愛車フィーバータイム”です。
普段は壁に立てかけっぱなしなのに、洗車後だけ妙に丁寧に扱う。コンビニ駐輪ですら不安になる。さらには部屋の中に持ち込み、なぜか椅子に座って眺め始めます。
しかも面白いことに、洗車直後のローディーは全員「なんかペダル軽くなった気がする」と言い始めます。気のせいのときもあります。かなりあります。
今回はそんな洗車後だけ急に愛車への愛情が爆発するローディーについて語っていきます。
洗車前は「ただの鉄の塊」
ロードバイクは高級趣味です。
完成車価格30万円。
ホイール20万円。
気づけば総額は軽く小型バイクを超えていきます。
しかし不思議なことに、洗車前のローディーはその愛車をわりと雑に扱います。
河川敷を走って泥だらけ。
チェーンは黒い。
スプロケットは謎の汚れでギラギラ。
なのに本人は「まあ走れるからヨシ」で済ませています。
もはや扱いが“相棒”ではありません。
ただの移動兵器です。
特に乗り込み期間に入ったローディーほど危険です。距離を走ることしか頭になくなるので、愛車の汚れを見ても感情が死んでいます。
「あとで洗うか」
「今度まとめてやるか」
「チェーン鳴いてるけどまあ平気か」
そして気づけば、バーテープの色すら分からなくなっています。
しかも厄介なのが、ローディーは汚れている状態に慣れることです。毎週見ているので、徐々に“汚い状態が通常”になります。
ところが洗車を始めた瞬間、急に目が覚めます。
「うわっ……こんな汚れてたのか」
「チェーン真っ黒じゃねえか」
「フレームこんな色だったっけ?」
ここからローディー特有の“洗車覚醒モード”が始まります。
普段はただの鉄の塊みたいに扱っていたのに、泡とウエスを手にした瞬間から、急に高級美術品みたいな接し方になります。
黒すぎるチェーンに引く
洗車中のローディーが最初に現実を見る場所。
それがチェーンです。
普段は「駆動効率がどうこう」と真面目な顔で語っているのに、実際のチェーンを見ると、だいたい真っ黒です。
しかも触った瞬間、指まで終わります。
「あっ……」
この瞬間の絶望感はかなりのものです。白いウエスで拭けば、一発で“墨汁みたいな何か”が付着します。もはや油なのか砂なのか鉄粉なのか分かりません。
さらに面白いのが、ローディーはこの段階で急に神妙な顔になることです。
「こんな状態で走ってたのか……」
「チェーンかわいそうだったな……」
数時間前まで普通に河川敷を爆走していた人間とは思えません。急に保護者みたいな空気を出してきます。
そしてここから、異様なこだわりが始まります。
チェーンクリーナー。
ブラシ。
ディグリーザー。
謎に大量のウエス。
さっきまで「まあ走ればいいか」だった人が、突然メカニック人格へ変身します。
しかもチェーン清掃は、やればやるほど終わりません。拭いても黒い。回しても黒い。洗ってもまだ黒い。
結果としてローディーは途中で意地になります。
「今日は徹底的にやる」
たぶん全ローディーが一度は、チェーン相手に無駄な闘争心を燃やしています。そしてようやく銀色を取り戻した瞬間、急に愛車への愛情が爆発します。
ロードバイク界隈では、チェーンが綺麗になるだけで“新品感”が3割増しになります。
一度洗い始めるとガチに
ロードバイク乗りは、洗車を始めるまでは腰が重いくせに、一度スイッチが入ると異常に本気になります。
最初は軽い気持ちです。
「今日はチェーンだけ軽く拭くか」
そのつもりだったはずです。
しかし気づけば、ホイールを外し始めます。スプロケットを磨き始めます。さらには綿棒まで登場します。
もう止まりません。
普段の生活では絶対にそんな几帳面ではない人でも、ロードバイク洗車だけは別人格になります。
フレーム裏を覗き込み、
「ここ汚れてるな……」
BB周辺を見て、
「うわ、砂入ってる……」
気づけば30分の予定が2時間コースです。
しかも面白いのが、洗車中のローディーは急に“職人感”を出してくることです。
無言。
真剣な目。
一定リズムでチェーンを回す動き。
もはや趣味というより儀式です。
さらに洗車が進むほど、汚れへの許容値が下がっていきます。最初は気にならなかった小さな汚れが、途中から急に許せなくなります。
「いやここもやるか」
「どうせなら全部いくか」
「ここまでやったなら徹底的にやる」
ローディーは“ついで”に弱い生き物です。そして最終的に、暗くなった庭やベランダでひとり無言洗車を続けることになります。
たぶんロードバイク界隈には、「軽く洗う」という概念は存在しません。
洗車後だけ“高級車感”が出たように見える
洗車直後のロードバイクは、不思議なくらい高そうに見えます。
実際にはいつもの愛車です。
昨日まで普通に泥を浴びていたロードバイクです。
しかし洗った瞬間、急にオーラが変わります。
フレームはツヤツヤ。
ホイールはキラキラ。
チェーンは銀色。
ここでローディーの脳がバグります。
「えっ……俺のバイクこんなカッコよかった?」
そうです。元からです。
ただ汚れで全部消えていただけです。
しかも洗車後のローディーは、急に愛車を“高級品扱い”し始めます。
コンビニ駐輪で壁に立てかける角度を気にする。
ちょっとした砂利道を避ける。
段差を見つけると異常に減速する。
数時間前まで河川敷を雑に走っていた人とは思えません。
さらに面白いのが、洗車後だけ所有満足感まで上がることです。
「やっぱこのカラーいいな……」
「このホイールかっけえ……」
「このシルエットたまらん……」
突然、愛車鑑賞会が始まります。
そしてローディーは高確率で写真を撮ります。
横から撮る。
斜め前から撮る。
なぜかコンポ周りも撮る。
たぶん洗車後のローディーは、全員「うちの子が世界一カッコいい」と思っています。
ロードバイク界隈では、“洗車後だけ完成車価格が10万円くらい上がった気がする現象”が定期的に発生します。
小さな傷を見つけて心がザワつく
洗車後のローディーは、急に観察力が上がります。
普段は気づきもしなかった場所を、ものすごい真剣な顔で見始めます。
フレーム。
クランク。
フォーク。
そしてそこで発見してしまうのです。
小さな傷を。
「あっ……」
この瞬間、空気が変わります。
さっきまで「うちのバイク最高だな」とニコニコしていた人間が、急に無言になります。そして傷をいろんな角度から確認し始めます。
「これいつ付いた?」
「立てかけた時か?」
「いや輪行か……?」
完全に現場検証です。
しかも面白いのが、走行中はまったく気づかなかった傷なのに、洗車後だけ異様にショックを受けることです。汚れている時は気にならなかったのに、ピカピカになると小傷が急に存在感を放ち始めます。
さらにローディーは、“原因の記憶探索”を始めます。
「あのコンビニの駐輪か?」
「車載の時ぶつけた?」
「もしかして友達のペダル?」
だんだん推理ドラマみたいになります。
ただ冷静に考えると、ロードバイクは外を走る乗り物です。多少の傷は避けられません。しかし洗車後のローディーは、その事実を一瞬忘れます。
結果として、小傷ひとつで心がザワつきます。そして数分後、だいたい開き直ります。
「まあ……走れば増えるか」
この“絶望→受容”まで含めて、ロードバイク洗車の恒例行事です。
翌日だけ異様にペダルが軽い…気がする
洗車翌日のローディーは、とにかく機嫌がいいです。
なぜなら、ペダルが軽いからです。
いや正確に言うと、“軽くなった気がする”からです。
走り出した瞬間から違います。
「うわっ、めっちゃ進む」
「回転が滑らか」
「昨日の洗車効いてるわ」
ここで始まります。
洗車後限定の“俺メカニック天才説”です。
もちろん実際にチェーン清掃や注油の効果はあります。駆動抵抗が減るので、乗り味が改善するのは本当です。
ただしローディー界隈では、その効果がかなり盛られます。
昨日まで時速28kmだった人が、「これ35km巡航いけるぞ」とか言い始めます。だいたい気分です。
しかも洗車直後は、愛車へのテンションも最大値なので、体感性能まで上方修正されます。
変速が「スパスパ入る気がする」。
ダンシングが「キレキレな気がする」。
ホイールまで「軽くなった気がする」。
たぶん何割かはプラシーボです。
さらに面白いのが、洗車翌日のローディーは無駄に踏みたがることです。やたら加速する。信号ダッシュしたがる。意味もなく高ケイデンスで回す。
新しいオモチャを手に入れた小学生みたいになります。
そして数日後、また普通に汚れていきます。
チェーンは黒くなる。
フレームには砂埃。
気づけば扱いも雑に戻る。
しかしローディーは知っています。
また洗えば、愛車への愛情が全部復活することを。


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