ロードバイクを始めると、不思議なくらい似たような言動をするようになります。黒い装備にこだわり、型番だけで会話が成立し、聞かれてもいないのに「最近は全然乗ってない」と言いながら、誰よりもしっかり走っています。本人はごく自然なつもりでも、周りから見ればどこか中二病っぽい行動ばかりです。今回は、ローディーなら思わず「あるある」と笑ってしまう、中二病が抜けきらない特徴を集めてみました。
フレームもジャージも全部黒で統一しがち
ローディーは装備の色を考え始めると、なぜか黒へ吸い寄せられます。フレームはマットブラック、ジャージも黒、ヘルメットやシューズ、ボトルまで暗色で固め、完成した姿を見て「余計なものを削ぎ落とした」と満足します。実際には全身が同じ色になっただけですが、本人の脳内では特殊部隊か、正体を隠して夜の街を駆ける謎のライダーです。
黒は引き締まって見えますし、どの車体にも合わせやすいため、選びやすい色ではあります。ただローディーの場合は実用性だけで終わりません。光沢の有無やロゴの目立ち方、カーボン柄がどれくらい透けているかまで確認し、「この黒は少し違う」と真顔で語ります。一般の人には全部同じ黒に見えても、本人には漆黒、ガンメタ寄り、ステルス仕様といった明確な区別があります。
新しいアイテムを買うときも、カラフルな候補を眺めた末に選ぶのは結局ブラックです。「飽きないから」「汚れが目立たないから」と説明しますが、本音では黒く統一された自分が格好よく見えて仕方ありません。真夏の日差しを吸収し、駐輪場では愛車を見失いかけても、この美学だけは曲げません。ロードバイクに乗ると全身黒が単なる配色ではなく、己の速さと孤高さを表現する戦闘形態になるのです。
意味もなく型番で語る
ローディー同士の会話では、製品名より型番が先に飛び出します。「あのリアディレイラー」ではなく「R8150」、「そのホイール」ではなく「WH-R9270」と呼び、相手が理解できることを当然の前提として話を進めます。型番を言った方が短いわけでも、説明が分かりやすくなるわけでもありません。それでも正式名称を口にすると、機材を深く知る者だけが使える暗号を操っているような気分になれます。
新しいパーツを購入したときも、「アルテグラに替えました」では物足りません。「R8170を入れました」と報告し、数字の並びに興味を示さない相手には少し寂しそうな顔をします。聞いた側が「何が変わったの?」と尋ねても、重量や世代、互換性の話へ進む前に、別の品番が次々と追加されます。最終的には説明を受けているのか、倉庫の在庫確認に付き合わされているのか分からなくなります。
型番を覚えること自体は、部品選びや整備で役立ちます。ところが中二病を発症したローディーは、必要のない場面でも数字を解放します。サイクルショップでは店員より先に口にし、仲間の車体を見れば頼まれてもいないのに世代を特定します。一般の人には無機質な記号でも、本人にとっては性能や格付けを示す称号です。ロードバイクの知識が増えるほど会話から固有名詞が消え、数字とアルファベットだけで意思疎通する秘密組織の構成員へ近づいていきます。
聞いてもないのに「最近、全然乗ってない」
ローディーは久しぶりに会った仲間へ挨拶するより先に、「最近、全然乗ってないんですよ」と申告します。誰も走行距離を質問していませんし、脚力を審査する場でもありません。それでも自ら不調を宣言し、今日の走りに保険をかけます。謙遜のように聞こえますが、実際には「乗っていない状態でも、そこそこ走れる自分」を見せるための高度な前振りです。
ところが話を詳しく聞くと、全然の基準がおかしくなっています。平日はローラーを数回、週末は軽く80キロ、先月は気分転換に峠へ行った程度だと言います。一般人なら十分すぎる運動量ですが、本人の中では200キロのロングライドや獲得標高数千メートルをこなしていなければ、乗ったうちに入りません。月間走行距離が数百キロあっても、以前より減っていれば堂々とブランク扱いです。
この発言には逃げ道も用意されています。速く走れなければ「言った通り練習不足」、調子が良ければ「乗ってないのに意外といけた」と、どちらへ転んでも格好がつきます。さらに仲間から「それで全然乗ってないの?」と突っ込まれると、少しうれしそうな表情を浮かべます。つまり「最近、全然乗ってない」は近況報告ではなく、実力を隠して戦場へ現れる強者の設定です。走る前から言い訳を仕込み、結果次第で物語を書き換えられる便利な呪文として、多くのローディーに愛用されています。
抜かれると「昨日、寝てない」
河川敷や峠で後ろから別の自転車が迫ってきても、ローディーは簡単には動揺しません。一定のペースを守りながら、相手の車種や体格、脚の回転をさりげなく確認します。そして勢いよく追い越された瞬間、誰に聞かれたわけでもないのに「昨日、寝てないからな」と小さくつぶやきます。相手には届かない声量ですが、自分の名誉を守るには十分です。
睡眠不足は便利です。脚が重いのも、心拍数が上がるのも、巡航速度が伸びないのも、すべて昨夜のせいにできます。前日に何時まで起きていたのかは重要ではありません。普段より30分遅く寝ただけでも、本人の中では徹夜明けと同等の扱いになります。晩酌をして夜更かしした事実は伏せられ、「本来の力を出せない状態で走っている」という設定だけが採用されます。
さらに追い越した相手が女性や年上に見えると、症状は深刻です。「今日は回復走だから」「朝飯を食べていない」「向こうは電動かもしれない」と、追加の理由が次々に生まれます。素直に速かったと認めれば数秒で終わる話ですが、それでは心の中の最強キャラが負けたことになります。そこで体調不良という封印を施し、「万全なら結果は違った」という可能性を残すのです。
もちろん抜かした側は、後方で繰り広げられている設定変更など知りません。そのまま遠ざかり、数分後には存在すら忘れています。それでも残されたローディーは、寝不足という重いハンデを背負いながら走る悲劇の主人公としてペダルを回し続けます。勝負は道路上で終わっていても、脳内ではまだ負けていないことになっています。
アームカバーがタトゥー柄
アームカバーには日焼け対策や体温調整という立派な役割があります。しかし一部のローディーは、その機能性だけでは満足できません。選ぶのは無地でも反射素材でもなく、腕一面に龍や炎、ドクロが描かれたタトゥー柄です。普段は職場で静かにパソコンへ向かい、コンビニではポイントカードを丁寧に出す人でも、自転車へまたがった瞬間だけ両腕に封印された力を解放します。
本人は「紫外線対策ですよ」と平静を装いますが、白い無地の商品も売られていることは知っています。それでも彫り物風の模様を選ぶのは、速そうに見えるだけでなく、後続へ余計な圧を与えられるからです。信号待ちで腕を組めば歴戦の走り屋に見え、ハンドルを握れば危険な任務へ向かう戦士の雰囲気が生まれます。実態は休日のサイクリングで、目的地も道の駅やパン屋ですが、腕だけは抗争に向かう準備が整っています。
厄介なのは、着用しているうちに本人の振る舞いまで少し変化することです。いつもより胸を張り、サングラスを外さず、休憩中も腕の模様がよく見える角度を保ちます。記念撮影では自然に袖を伸ばし、タトゥー部分が隠れると撮り直しを要求しかねません。一方で暑くなって外せば、中から現れるのは日に焼けていない普通の腕です。その瞬間だけ魔力は消え、穏やかな会社員や家庭人へ戻ります。タトゥー柄のアームカバーは肌を守る用品であると同時に、数千円で別人格へ変身できるローディー専用の装備なのです。
まとめ|治ることはありません
黒い機材で身を固め、数字とアルファベットを呪文のように唱え、走る前には練習不足を名乗り、追い越されれば睡眠時間を持ち出します。さらに腕には龍や炎を宿し、休日のサイクリングを壮大な戦いへ変えてしまいます。ここまで来ると中二病は一時的な症状ではなく、ロードバイクを楽しむための標準機能です。
年齢を重ねれば落ち着くと思われがちですが、残念ながら改善する気配はありません。むしろ知識と予算が増えるほど、こだわりは細かくなります。若い頃は派手なウェアで満足していた人が、数年後には限定カラーや廃番部品、わずかな重量差に特別な意味を見いだします。経験を積んで大人になるどころか、設定だけが緻密になり、世界観の完成度が高まっていきます。
ただし治す必要もありません。誰にも迷惑をかけず、安全を守って走っているなら、格好をつけることも、大げさな理由を用意することも趣味の一部です。自分だけの愛車に名前をつけ、装備へ物語を持たせ、いつもの道を特別な舞台へ変えられるからこそ、何度でも走りたくなります。冷静になれば少し恥ずかしい言動も、仲間同士なら笑える共通言語です。
ローディーの中二病は完治しません。新しい車体を手に入れれば再発し、速い人に出会えば悪化し、限定品を見つければ迷わず覚醒します。それでも本人が楽しそうなら問題ありません。大人になっても本気で格好をつけられる場所があることは、案外幸せなことです。今日も誰かが漆黒の愛車へまたがり、誰にも頼まれていない設定を背負って走り出します。


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