「105で十分だから」
ロードバイク界隈で何度も聞くこの言葉。本当に性能に満足しているのでしょうか。それとも最新のDi2や新型ロードバイクが気になりながら、自分に言い聞かせているだけなのでしょうか。今回は長年機械式105に乗り続けるベテランローディーたちの本音に迫ります。
昔は本当に105で十分だった
昔の105は、本当に十分すぎるほど十分でした。
特に10速から11速へ移っていった頃の105は、多くのローディーにとって現実的な完成形だったと言ってもいい存在です。デュラエースやアルテグラはもちろん上位グレードでしたが、普通に走る、峠を登る、ロングライドへ行く、週末に仲間と走るくらいなら105で何の不満もありませんでした。
むしろ当時は「105が付いていればちゃんとしたロードバイク」という空気すらありました。50歳前後のおぢたちが今でも胸を張って「105で十分」と言うのは、その時代を知っているからです。あの頃はそれで正しかったのです。
問題は、その言葉だけが令和までそのまま生き残ってしまったことです。スマホは何台も買い替えたのに、ロードバイクだけは10年以上前の機械式105で時が止まっている。本人の中ではまだ現役バリバリでも、周囲はディスクブレーキ、電動変速、内装ケーブル、ワイドリムへ進んでいます。
それでも「いや、105で十分だから」と言えるのは、ある意味で強い精神力です。昔の105が優秀だったのは事実です。ただし、それは昔の105がすごかったという話であって、今のロードバイク事情まで全部それで片付くわけではありません。
おぢたちの心の中では、あの日の105が今も輝き続けているのです。
気にはなるがDi2は邪道と強がる
気にはなるのです。Di2の変速音も、ボタンを押すだけでスパッと決まる感じも、YouTubeで見るたびに「ほう」と思っているのです。試乗会で一度触ったときには、たぶん少し感動しています。
それでも105おぢは簡単には認めません。「いや、自転車は機械式でしょ」「ワイヤーを引く感触が大事なんだよ」「電動なんて邪道だよ」と、まるで長年守ってきた伝統工芸の継承者のような顔で語ります。しかしその直後に、なぜかDi2搭載車の価格だけはしっかり調べています。邪道と言いながら検索履歴は正直です。
しかも詳しいのです。12速化、セミワイヤレス、シンクロシフト、バッテリー持ち、充電方法まで、乗っていないのになぜか知っています。これは嫌いなのではありません。気になりすぎて詳しくなっている状態です。本当に興味がない人は、そもそも調べません。
105おぢがDi2を邪道と言うとき、それは完全な拒絶ではなく「欲しいけれど今すぐ買うとは言えない」という心の防御姿勢なのです。もちろん機械式にも魅力はあります。自分の手で変速している感覚や、構造の分かりやすさは今でも大きな価値です。
ただ時代が進むほど、Di2を完全に無視するのは難しくなっています。今日も105おぢは「電動なんていらない」と言いながら、スマホでDi2完成車の在庫を見ています。たぶん本人も薄々気付いています。邪道どころか、かなり王道になってきていることに。
本音はバイクを買い替えられないだけ
本音の部分に触れてしまうと、話は少しだけ切なくなります。なぜならおぢの中には、本当に105で満足している人もいますが、「買い替えられないから乗り続けている人」も少なくないからです。
10年以上前にロードバイクを買った頃は、今よりずっと価格が穏やかでした。20万円台、30万円台で十分立派なロードバイクが手に入りましたし、頑張ればアルテグラ完成車も視野に入る時代でした。しかし現在は違います。Di2搭載車になると価格は軽く数十万円。モデルによっては100万円を超えることも珍しくありません。
いま50歳前後から60代のおぢたちも若い頃は勢いで機材を買えました。しかし今は住宅ローン、子どもの教育費、老後資金、車検、固定資産税など、ロードバイク以外のラスボスが大量に出現しています。学生時代のRPGなら中盤の街を出たあたりなのに、人生というゲームでは終盤のボスラッシュです。
そのため「105で十分」という言葉の中には、「もう買い替える余裕がない」という本音が混ざっています。本人もそれは分かっています。だから最新ロードバイクの記事を読むし、新型コンポーネントの情報も追います。興味がなければ見ないはずなのに、なぜか毎回読んでいます。
さらに面白いのは、買う予定がないのに価格だけは異常に詳しいことです。「あれは95万円くらいだろ」「あのホイールは40万円超えるぞ」と即答できます。購入予定のない高級車の値段を完璧に把握している人と同じ状態です。
もちろん長年連れ添ったロードバイクへの愛着もあります。だから単純に新車が欲しいわけではありません。ただもし宝くじで大金が当たった翌日に何を買うかと聞かれたら、おそらく多くの105おぢは驚くほど素早くDi2搭載車の見積もりを取り始めるでしょう。つまり本音を一言でまとめるなら、「105で十分」というより、「105で頑張っている」が近いのかもしれません。
時代はどんどんアップグレードし焦燥感だけが募る
時代というものは残酷です。こちらが何もしていなくても勝手に進んでいきます。おぢが愛車を大切に磨いている間にも、ロードバイク界隈では新しい規格や技術が次々と登場しています。
気付けばディスクブレーキが主流になり、電動変速が当たり前になり、ホイールはワイド化し、タイヤは太くなり、ケーブルはフレームの中へ消えていきました。かつては最先端だった愛車も、いつの間にか「懐かしいですね」と言われる世代になっています。
もちろん普通に走る分には何も困りません。平坦も登れますし、ロングライドも楽しめます。ところがサイクルイベントやショップへ行くと、最新機材に囲まれる瞬間があります。そこで105おぢの心は少しだけ揺れます。
隣にはDi2搭載車。その隣にはカーボンホイール。さらに向こうには完全内装ケーブルのエアロロード。もはや昔の少年漫画の主人公が、最新作のキャラクターたちに囲まれているような状況です。
すると不思議なことが起きます。「別に欲しくないし」「今ので十分だから」と言いながら、新型コンポーネントの記事を読む回数だけは増えていきます。動画も見ます。レビューも見ます。比較記事も読みます。買わないはずなのに勉強熱心です。
さらに同年代の仲間が買い替え始めると話は複雑になります。「ついにDi2にしたよ」「変速が楽だよ」「これは戻れないわ」と言われるたびに、「そうなんだ」と笑顔で返しながら心の中では小さなダメージを受けています。
そして帰宅後、自宅のガレージや玄関に置かれた愛車を眺めます。長年苦楽を共にした相棒です。愛着もあります。性能に不満もありません。しかしスマホには最新ロードバイクの記事が表示されています。
こうしておぢは今日も葛藤します。今のロードバイクで十分だと思う自分と、新しい機材に惹かれる自分。その間で揺れ続けるのです。ロードバイク界隈における焦燥感とは、脚力ではなく物欲との戦いなのかもしれません。
それでも機械式105で今日を走る
それでもおぢは今日も走ります。Di2が気になっても、最新ロードバイクの記事を読んでも、仲間の新車を見て心が少し揺れても、週末になればいつもの機械式105にまたがります。
なぜなら何だかんだ言って、そのロードバイクで十分楽しいからです。レバーを押し込めば変速しますし、坂はしんどいながらも登れます。向かい風では普通に苦しみますが、それはDi2でも同じです。むしろ長年乗り続けた機材には、最新モデルにはない身体へのなじみがあります。サドルの位置も、ブラケットの握り心地も、変速のクセも、全部分かっています。本人にとっては古いロードバイクではなく、何年も一緒に走ってきた相棒なのです。
もちろんイベント会場でピカピカの新型を見ると、少しだけ目が泳ぎます。「いや、俺はこれでいいんだよ」と言いつつ、帰宅後に中古相場を調べることもあります。それでも翌朝には空気を入れ、チェーンにオイルを差し、また同じバイクで出発します。
ここがおぢの強さです。買い替えられない現実も、最新機材への憧れも、長年の愛着も、すべて背負ったまま走っています。機材は時代遅れかもしれません。しかしロードバイクを楽しむ気持ちまで古くなるわけではありません。だからおぢは今日も淡々とペダルを回します。口では「105で十分」と言いながら、心の片隅でDi2完成車の納期を気にしつつ。
まとめ|105で十分なのか、105しか選べないのか
105で十分。この言葉はロードバイク界隈で何度も聞いてきました。そして実際、その言葉は間違いではありません。機械式105は今でも十分に走れますし、ロングライドもヒルクライムも楽しめます。普通に考えれば、とても優秀なコンポーネントです。
ただ面白いのは、その言葉を発する人ほど最新のロードバイク事情に詳しいことです。Di2の性能も知っています。新型フレームの価格も知っています。カーボンホイールの重量も知っています。本当に興味がない人はそこまで調べません。
だから「105で十分」という言葉には二つの意味があるのかもしれません。本当に満足している人の言葉。そして少しだけ憧れを抱きながら、自分を納得させるための言葉です。
もちろんどちらが正しいという話ではありません。趣味なのですから、機材選びに正解はありません。10年以上前のロードバイクでも十分楽しいですし、最新のDi2搭載車にも大きな魅力があります。
ただ一つだけ確かなことがあります。それはおぢたちが今もロードバイクを楽しんでいるということです。新しい機材への憧れを抱えながらも走り続ける。ショップで価格を見てそっと閉じる。イベント会場で最新モデルを眺める。そして帰宅したら愛車を磨く。その繰り返しです。
もしかすると「105で十分」なのかもしれません。もしかすると「105しか選べない」のかもしれません。その答えは本人にしか分かりません。ただ少なくとも全国のおぢたちは今日も元気です。そしてたぶん今この瞬間も、スマホでDi2完成車のレビュー動画を見ながら「いや、105で十分なんだけどね」とつぶやいているはずです。


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