週末の朝。天気は快晴、風も弱い。ロードバイク乗りにとっては最高のコンディションです。しかし既婚ローディーが本当に気にしているのは天気予報ではありません。リビングの空気と、パートナーから放たれる「また乗るの?」の一言です。今回は全国の既婚ローディーが一度は経験したことがある、週末ライド前の静かな攻防戦を振り返ります。
朝、静かに準備を始める
朝の5時。目覚ましが鳴るより先に目が覚めています。なぜなら今日はライドの日だからです。本来なら遠足前の小学生のように勢いよく起きたいところですが、既婚ローディーはそうもいきません。まず求められるのは静かさです。
ベッドから起き上がる動作は忍者レベル。床板を鳴らさず、ドアノブを回す音も最小限に抑えます。ジャージを取り出すときも慎重です。なぜかロードバイク関連の物だけは異様によく音が出るからです。ヘルメットを落とした日には、その時点でライドの難易度が一気に上がります。
キッチンで補給食を準備するときも同じです。本人は朝食を食べているだけのつもりですが、どこか後ろめたさがあります。まだ何も言われていないのに、なぜかコソコソしています。ロードバイク乗り特有の習性です。
そして玄関へ向かいます。シューズを履き、サングラスを準備し、自転車を外へ出す。この時間が最も緊張します。まるで映画の潜入シーンです。敵地へ侵入するわけでもないのに、なぜか心拍数だけは上がります。
もちろん家族に隠れて走りに行くわけではありません。昨日のうちに伝えてありますし、予定も共有しています。それでも静かに準備してしまうのです。全国のローディーは知っています。ライド当日の成功は、この朝の数分にかかっていることを。
ロードバイク界隈では平均速度やFTPを競う人もいます。しかし既婚ローディーにとって本当に重要なのは、家族を起こさず出発できる能力なのかもしれません。これは何年乗っても上達し続けるスキルです。
天気予報より嫁の機嫌を確認
ローディーは天気予報を気にする生き物です。降水確率、風速、気温、湿度。前日の夜から何度もアプリを開き、「これは走れる」「いや午後から風が強いな」などと真剣に分析しています。しかし既婚ローディーの場合、それ以上に重要な確認項目があります。それがパートナーの機嫌です。
どれだけ快晴でも意味はありません。風速1mの無風でも関係ありません。機嫌指数が低ければライド計画は一気に黄色信号です。ロードバイク界隈では天候リスクより家庭内リスクの方が高いことがあります。
そのため朝の既婚ローディーは妙に観察力が鋭くなります。おはようの返事がいつも通りか。表情は穏やかか。昨夜の会話に地雷は残っていないか。まるでプロファイラーです。
さらに難しいのは、理由が分からないケースです。昨日までは完璧だったはずなのに、なぜか空気が重い。天気予報なら原因を調べられますが、こちらは高性能サイクルコンピューターでも解析できません。
だからローディーは知恵を絞ります。ゴミ出しをする。洗濯物を畳む。朝食後の食器を片付ける。ロードバイクの世界では「軽量化」が重要ですが、家庭内では「家事ポイント積み立て」が重要です。むしろこちらの方が効果は絶大です。
そして全ての準備が整ったところで、勇気を出して言います。「じゃあ行ってくるね」。この瞬間に笑顔で「いってらっしゃい」が返ってきたら勝利です。獲得標高2,000mの山岳コースより達成感があります。
ロードバイク界隈では天気予報を何度も確認する人がいます。しかし結婚すると優先順位が少し変わります。晴れ予報を見て安心した後、家の中を見回してさらに安心する。そんな朝を経験しているローディーは意外と多いのです。
日本刀より切れる「また乗るの?」の一言
どれだけ完璧な朝でも油断はできません。空気圧もチェックした。補給食も用意した。天気も快晴。いよいよ出発というその瞬間、背後から聞こえてくることがあります。
「また乗るの?」
たった六文字です。しかし既婚ローディーにとっては、獲得標高3,000m級の破壊力を持っています。
不思議なのは、決して怒鳴られているわけではないことです。ごく普通のトーンです。むしろ穏やかな場合もあります。それなのに胸へ刺さります。ロードバイク界隈の七不思議のひとつです。
この一言を聞いた瞬間、人間の脳は異常な速度で回転を始めます。「先週は何回乗ったっけ」「来週は家族サービスの予定を入れようかな」「帰りにケーキでも買って帰るか」など、ライド前とは思えない思考が一気に駆け巡ります。
さらに厄介なのは、正解が存在しないことです。「うん!」と元気に答えるべきなのか。「いや、ちょっとだけだから」と距離を短縮するべきなのか。ロードバイク歴20年でも攻略法は見つかっていません。
一方でローディー側にも言い分があります。本人からすると、平日に仕事を頑張り、空いた週末の数時間を趣味に使いたいだけです。しかしパートナーから見れば、「先週も乗ってなかった?」となることがあります。ここに認識のズレが生まれます。
面白いことに、この現象は20代でも30代でも50代でも発生します。年齢は関係ありません。結婚すると誰もが平等に「また乗るの?」というイベントへ参加することになります。
それでもローディーは走りに行きます。なぜならロードバイクが好きだからです。そして帰宅後には「今日は風が強くてさ」と話し始めます。すると今度は「へぇ、そうなんだ」と返されます。朝の緊張感は何だったのか分かりません。
ロードバイク界隈では向かい風を恐れる人が多いですが、本当に恐ろしいのは家の中から吹いてくる無風の一言なのかもしれません。たった六文字なのに、なぜか心拍数だけはしっかり上がるのです。
事前の家事ポイントで生存率を向上
ライドの成功率を上げたいなら、前日からの家事ポイント積み立てが重要です。これは既婚ローディーにとって、補給食や空気圧チェックと同じくらい大切な準備です。洗濯物を畳む、食器を片付ける、掃除機をかける、ゴミをまとめる。
やっていることは普通の家事なのですが、週末ライド前だけ妙に動きが機敏になります。普段は「あとでやる」と言いがちな人も、この日だけはプロチームのメカニック並みに素早く動きます。なぜなら分かっているからです。家庭内の信頼残高がゼロのまま「明日ちょっと走ってくるね」と言うのは、補給なしで山岳コースへ突入するようなものです。途中で確実に脚ではなく立場が終わります。
もちろん家事はポイント稼ぎのためにやるものではありません。本来は日常的に分担するものです。ただロードバイク界隈では、なぜかライド前になると急にその事実を思い出す人がいます。急に優しい。急に皿を洗う。急に風呂を掃除する。パートナーから見れば「何かあるな」とバレています。それでも何もしないよりは確実にマシです。
朝になって「また乗るの?」と聞かれたとき、前日に積み上げた家事ポイントが心の支えになります。たとえ明確に許可が出ていなくても「昨日けっこう頑張ったし」という謎の自己肯定感が生まれます。
ロードバイクは脚力だけで走る趣味ではありません。家庭内調整力も必要です。速い人が強いとは限りません。週末に気持ちよく出発できる人こそ、本当に段取りの良いローディーなのです。
出発後はやはり小さな罪悪感を
出発できた瞬間は嬉しいはずなのに、なぜか少しだけ罪悪感があります。ロードバイク乗りなら一度は経験したことがある感覚です。家を出るまでは「今日は楽しむぞ」と思っていたのに、走り始めると頭の片隅で家のことを考えています。
河川敷へ出た頃には少し落ち着きます。しかし信号待ちで止まった瞬間、「今ごろ洗濯物を干しているかな」「子どもと公園へ行っているかな」など、急に良心が顔を出します。さっきまで空気抵抗のことしか考えていなかった人間とは思えません。
特に天気が良い日は危険です。青空の下を気持ちよく走れば走るほど、「こんな日に自分だけ遊んでいていいのだろうか」という感情が生まれます。ロードバイクは楽しい趣味ですが、楽しければ楽しいほど若干の後ろめたさも増えるという不思議な副作用があります。
さらにライド仲間との会話も絶妙です。「今日は許可出たの?」「午後から家族サービス?」「帰ったら怒られない?」など、なぜか似たような話題になります。全国の既婚ローディーが同じような悩みを抱えていることを知り、少し安心します。
とはいえ、その罪悪感は決して悪いものではありません。家族を大切に思っているからこそ生まれる感情でもあります。だから多くのローディーはライドを楽しみながらも、帰宅時間を気にし、お土産を買い、午後の予定を考えています。
面白いことに、独身時代は一日中走っても何も感じませんでした。しかし家庭を持つと、100km先の峠より帰宅後の空気の方が気になるようになります。ロードバイクが人生を変えるとはよく言いますが、変わるのは脚力だけではないのです。
そして数時間後、満足して帰宅します。すると「楽しかった?」と聞かれます。その一言で朝から抱えていた罪悪感が少し軽くなります。だから既婚ローディーは今日も走ります。楽しさと申し訳なさをサドルバッグに詰め込みながら。
まとめ|嫁に怯えつつ今日も走る
週末の朝、ロードバイクに乗る人は天気や風向きだけを見ているわけではありません。家の空気、パートナーの表情、前日の家事ポイント、そして「また乗るの?」の気配まで確認しています。もはやライド前から一本のレースが始まっているようなものです。
もちろん家庭を放り出して走ればよいという話ではありません。趣味を続けるなら、家族とのバランスも大切です。ただロードバイクが好きな人にとって、週末の数時間はやはり特別です。
だから既婚ローディーは今日も慎重に準備し、少し怯え、少し申し訳なさを抱えながら、それでもペダルを回します。嫁の視線と向かい風。どちらも手強いですが、乗り越えた先のライドはやはり気持ちいいのです。


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