グループライドで前を走る仲間についていけず、ついにちぎれてしまった中級ローディー。しかし素直に脚力不足を認めるわけにはいきません。「今日は脚が重い」「昨日あまり寝ていない」「ホイールが違う」など、次から次へと飛び出す言い訳の数々。なぜ中級者ほど負けた理由を説明したがるのでしょうか。ちぎれたローディーたちのプライドと、思わず共感してしまう言い訳の世界を覗いてみましょう。
ちぎれた理由だけは豊富な中級者ローディー
ロードバイクに乗り始めたばかりの頃は、速い仲間についていけなくても仕方ないと割り切れるものです。しかし経験を積み、自分なりに走れるようになってきた中級ローディーとなれば話は別。グループライドで集団からちぎれることは、単に脚が売り切れる以上の精神的ダメージを伴います。昨日まで一緒に走っていた仲間の背中が少しずつ遠ざかり、必死にペダルを踏んでも差が縮まらない。サイコンの数字は限界を示しているのに、頭の中では早くも別の作業が始まっています。そう、休憩場所で披露する言い訳の準備です。
中級者ともなれば、自分の走力をある程度把握しています。普段の巡航速度も、得意なコースも、過去の自己ベストも頭に入っています。それだけに格下だと思っていた相手に置いていかれようものなら、プライドは大騒ぎ。認めたくない現実を前に、原因分析だけが異常な速度で進みます。体調、気温、風向き、機材の状態など、候補はいくらでも見つかります。ペダルを回す脚は止まりかけているのに、言い訳を生み出す思考回路だけは絶好調というわけです。
そして仲間が待つ場所へ到着すると、誰にも質問されていないのに説明会が始まります。周囲は水分補給をしたり景色を眺めたりしているだけなのに、本人は今日の走りが本来の実力ではないことを懸命に伝えようとします。聞いている側も何となく事情を察しているため、深く追及せずにうなずくのが大人の優しさでしょう。ところがその反応を見て安心したのか、さらに詳しい解説が追加されることもあります。誰も責めていないのに、なぜか一人だけ弁明に追われているのです。
もちろん実際に調子が悪い日もあれば、走行条件によって結果が変わることもあります。問題は理由の正しさではなく、毎回のように説明しなければ気が済まない心理にあるのでしょう。初心者の頃には素直に「速いですね」と言えていたはずなのに、いつの間にか負けを認めることが難しくなってしまう。中級ローディーとは、脚力だけでなく自尊心まで鍛えられる、なかなか複雑な成長段階なのかもしれません。
言い訳「昨日あんまり寝てない」
グループライドで仲間のペースについていけず、集団から脱落した中級ローディー。ようやく合流した休憩場所で、開口一番に飛び出すのが「いやぁ、昨日あんまり寝てないんだよね」という一言です。誰も敗因を尋ねていないのに、睡眠不足という事情だけは早めに共有しておきたいようです。しかも単に眠れなかったという話では終わりません。「布団に入ったのが2時くらいで」「朝も5時に目が覚めちゃって」と、具体的な睡眠時間まで丁寧に報告してくれます。もはやサイクリングの反省会ではなく、昨晩の生活記録発表会です。
確かに睡眠不足は運動中の集中力や体調に影響することがあります。十分に休めていなければ、普段より疲れを感じやすくなる場合もあるでしょう。ところがチャリカス中級者の場合、この説明には少々ややこしい事情があります。走り始める前は「今日は調子いいかも」と元気いっぱいだったのに、坂道で置いていかれた途端、昨夜の睡眠不足が重大な問題として浮上するのです。平坦区間で先頭を引いていたときには、そんな話は一度も出てこなかったはずですが、不思議なことに失速した瞬間から存在感を増し始めます。
さらに話を聞いていると、眠れなかった原因が前日の夜更かしだったりします。仕事だったり、動画を見ていた、ゲームをしていた、ロードバイクのパーツをネットで物色していたなど、理由は実にさまざま。それなら早く寝ればよかったのではと思いますが、そこには触れてはいけない空気があります。本人が伝えたいのは生活習慣の問題ではなく、十分な睡眠さえ取れていれば今日の結果は違ったという可能性なのです。
仲間から「じゃあ次はしっかり寝てきてね」と返されると、今度は妙に歯切れが悪くなります。睡眠不足という逃げ道を自分で塞がれてしまったからです。しかも「次は万全の状態で勝負しよう」とまで言われたら、もはや後には引けません。そして迎えた次のグループライド。前日は早めに就寝し、睡眠時間もばっちり確保。体調不良を理由にする余地はありません。ところが結果は前回と同じ坂道であっさり脱落。休憩場所に到着した本人は、仲間の顔を見るなり申し訳なさそうに口を開きます。「いやぁ、昨日は寝すぎちゃってさ」。どうやら中級ローディーにとって、脚力以外のすべてが敗因になるようです。
言い訳「さいきん全然走ってない」
グループライドで仲間に置いていかれた中級ローディーが、休憩場所でさりげなく口にする定番の言い訳。それが「いやぁ、さいきん全然走ってないんだよね」です。仕事が忙しかった、休日は予定が詰まっていた、天気が悪くて乗れなかったなど、走れなかった事情を次々と説明します。聞いている側は別に理由など求めていませんが、本人にとっては重要な情報です。今日の自分が遅いのは実力ではなく、単に練習不足だから。つまり本来の走力はもっと高いのだと、遠回しに主張しているわけです。
ところが話を詳しく聞いてみると、なかなか興味深い事実が判明します。「先週はちょっとしか乗ってない」と言いながら、走行距離は80km。さらにその前の週は100kmを超えていたりします。一般的な感覚では十分にサイクリングを楽しんでいるように思えますが、本人の基準ではまったく足りないようです。しかもスマホのアプリを開けば、毎週のように走行履歴が並んでいます。これだけ証拠が残っているのに、なぜ「全然走ってない」と言い切れるのでしょうか。どうやら中級ローディーの辞書では、普段より少し距離が減っただけでも長期休養扱いになるようです。
この言い訳の便利なところは、絶妙に反論しにくいことです。どれくらい走れば十分なのかは人によって違うため、本人が練習不足だと主張すれば、それ以上は追及できません。しかも過去の自分を引き合いに出して「去年の今頃はもっと乗れてたんだけどね」と付け加えれば、現在の敗北を昔の実力で帳消しにすることまで可能です。目の前で速く走った仲間より、記憶の中にいる全盛期の自分のほうが強いという、なかなか都合のよい仕組みです。
そんな中級ローディーに限って、他人の走行距離には妙に詳しかったりします。「最近よく乗ってるもんね」「そりゃ速くなるよ」と、相手の努力を褒めているようで、実は自分が負けた理由を補強することも忘れません。そして仲間から「じゃあ来月は一緒に毎週走ろうよ」と誘われると、なぜか急に仕事の予定を確認し始めます。練習量さえ戻れば勝てるはずなのに、その機会が訪れるのは少々困るようです。
結局のところ、この言葉は走っていない事実を伝えたいのではなく、走っていれば速いという可能性を残しておきたいのでしょう。なお次のライドでもちぎれた場合は、「最近ちょっと走りすぎて疲れが抜けてないんだよね」に変更可能です。走らなくても走りすぎても言い訳が成立するのですから、実に完成度の高いシステムです。
言い訳「昨日の疲れで今日は脚が重い」
グループライドで登り坂に差しかかった途端、じわじわと仲間から引き離されていく中級ローディー。呼吸は乱れ、太ももは悲鳴を上げ、サイコンに表示されるパワーも思うように上がりません。ようやく頂上へ到着すると、待っていた仲間に向かって「昨日の疲れが残ってて、今日は脚が重いんだよね」と一言。どうやら本日の敗因は、昨日の自分が頑張りすぎたことにあるようです。今日の走力には問題がなく、疲労さえなければ十分についていけたという、実に便利な説明が完成します。
この言い訳が優秀なのは、前日に何をしていたとしても成立するところです。ロングライドをしていれば「昨日100km走ったから」、ヒルクライムなら「昨日かなり登ったから」、室内トレーニングなら「昨日ローラーで追い込んだから」。前日の運動実績が、そのまま本日の免罪符になります。しかも昨日どれだけ頑張ったかという話まで披露できるため、ちぎれた悔しさを過去の努力で補うことも可能です。負けた理由を説明していたはずが、いつの間にか昨日の武勇伝へと変わっているのだから見事なものです。
実際に激しい運動の翌日は疲労が残り、普段どおりの力を発揮できない場合があります。回復が十分でなければ無理をしないことも大切です。ただしチャリカス中級者の場合、問題はその申告が始まるタイミングでしょう。集合場所では誰よりも元気に談笑し、序盤の平坦路では積極的に先頭へ出ていたのに、登りで置いていかれた瞬間から昨日の疲れが深刻な問題として浮上します。どうやら疲労には、仲間との距離が開くほど存在感を増す特殊な性質があるようです。
さらに厄介なのが、相手から「昨日は何キロ走ったの?」と尋ねられたときです。「いや、距離は30kmくらいだけど、結構強度が高くてさ」と説明を追加します。ところが実際の内容を聞けば、近所を軽く流して帰ってきただけだったりします。もちろん短時間でも疲れることはありますが、話を盛るほど自分の首が絞まっていきます。
そして仲間から「じゃあ次は前日を完全休養日にしよう」と提案されると、急に表情が曇ります。万全の状態で再びちぎれたら、今度こそ逃げ道がありません。次回の集合場所で彼が口にする言葉は、おそらく決まっています。「昨日まったく乗らなかったから、脚が回らないんだよね」。中級ローディーの脚は、使っても休ませても調子が悪いという、実に繊細な代物なのです。
言い訳「今日は練習輪だし」
グループライドで仲間についていけず、坂の途中であえなく脱落。ようやく合流した中級ローディーが、息を整えながら口にするのが「今日は練習輪だからさ」という一言です。愛車に装着されているのは、頑丈さが取り柄の重量級アルミホイール。普段のトレーニングでは十分に使えるものの、軽量なカーボンホイールと比べれば登りや加速で重さを感じることもあります。つまり今日の結果は純粋な脚力勝負ではなく、機材の条件が違ったから仕方がないというわけです。
実際にホイールの重量や剛性、空力性能などは走りに影響します。特に登坂では重量差が不利に働く場合もあるため、練習用と決戦用を使い分けること自体は珍しくありません。ただし数百グラムの違いが、あらゆる走力差を帳消しにしてくれるわけではないでしょう。前を走る仲間との距離がどんどん開いていく状況でも、本人の頭の中では決戦用ホイールを履いた場合の仮想レースが展開されています。現実では置いていかれましたが、想像の中ではまだ互角に戦っているようです。
この言い訳には、なかなか便利な仕組みがあります。練習輪で速く走れれば、重たい機材でも強い自分をアピールできます。反対に遅かった場合は、重量のせいにすれば実力への評価を守れます。どちらの結果でも損をしない、実に合理的な機材選択です。さらに「普段はもっと軽いホイールを使ってるんだけどね」と付け加えれば、本日の装備が本来の姿ではないことまで説明できます。
ところが仲間から「じゃあ次は決戦輪で走ろう」と提案されると、話は少し複雑になります。機材の条件が整えば、今度は純粋な走力が問われるからです。それでも次回は軽量ホイールで颯爽と登場し、いつも以上の気合いでペダルを踏み込むかもしれません。結果がどうなるかは走ってみなければ分かりませんが、もし再びちぎれたら、新たな理由が必要になります。
そして次のライドで決戦用ホイールを投入したものの、結局同じ坂で仲間に置いていかれた中級ローディー。休憩場所で今度こそ脚力不足を認めるかと思いきや、こう言い放ちます。「やっぱり軽すぎるホイールって、進まないんだよね」。どうやら速く走れない原因は、ホイールが重くても軽くても見つかるようです。
言い訳「回復走だから」
グループライドで仲間がペースを上げ始めた途端、じわじわと集団の後方へ下がっていく中級ローディー。前を追いかける気配もなく、そのまま距離が開いてしまいます。次の休憩場所で「今日はどうしたの?」と聞かれると、涼しい顔で返ってくるのが「いや、今日は回復走だから」という一言です。なるほど、ついていけなかったのではなく、あえて追いかけなかったという説明です。脚力で負けたわけではなく、トレーニングの目的が違っただけ。これなら誰にも負けていないことになります。
回復走とは、強度の高い運動で疲労した身体に過度な負担をかけず、軽い運動を行うことです。本来は出力や心拍数を抑え、無理のないペースで走るものですが、言い訳として使う場合には非常に便利な特徴があります。速く走らないこと自体が目的になるため、どれほど遅れても失敗にはならないのです。むしろ頑張って追いつこうとするほうが、今日のメニューに反しているという理屈まで成立します。
ところが走行中の様子を振り返ると、少々つじつまが合いません。平坦路では積極的に先頭へ出て、追い風区間では気持ちよさそうに加速。短い坂では仲間を抜き去ろうとダンシングまで披露していました。それが長い登りに差しかかった瞬間、突如として回復走へ方針転換したのです。どうやらこのトレーニングメニューは、脚が残っている間は自由に強度を上げられ、苦しくなったところから本格的に始まる仕組みのようです。
仲間から「それなら最初からゆっくり走ればよかったのに」と指摘されても、本人は動じません。「いや、調子を見ながら走ってたんだよね」と、さらに説明を重ねます。どの場面でも自分の判断が正しかったことになるのですから、見事な自己管理能力です。
そして次の休憩所へ向かう途中、前方に自分より遅そうなローディーを発見。すると突然ペースを上げ、勢いよく追い抜いていきます。仲間に「回復走じゃなかったの?」と聞かれた本人は、何食わぬ顔で答えます。「今のはちょっと脚の調子を確認しただけ」。どうやら回復走とは、速い人には追いつかず、遅い人は追い抜いてもよい、実に柔軟なトレーニング方法のようです。
結論|中級者、プライドだけは上級者並み
グループライドで仲間にちぎられることは、ロードバイクに乗っていれば誰にでも起こり得ます。相手のほうが速かった、登坂能力に差があった、単純に自分の脚が足りなかった。それだけの話なのですが、中級ローディーにとっては簡単に片付けられない問題です。初心者の頃なら素直に感心できた相手の速さも、経験を積んで自信がついてくると、妙に悔しく感じるもの。そこで登場するのが、睡眠不足、練習不足、疲労、機材、回復走といった多彩な理由です。走力では届かなかった相手にも、言い訳の引き出しの多さなら負ける気がしません。
これらの発言に共通するのは、本来の自分ならもっと速く走れるという可能性を残しておきたい心理でしょう。昨日しっかり眠れていれば、最近もっと練習できていれば、決戦用ホイールを履いていれば。条件さえ整えば結果は違っていたはずだと考えることで、傷ついたプライドを守れるのです。しかも都合がいいことに、その仮定を証明する必要はありません。実際に走った結果よりも、頭の中で想像した自分のほうが強いのですから、負けを認める機会はなかなか訪れません。
ただし本当に速くなりたいのであれば、ときには実力差を受け入れることも必要です。仲間についていけなかった原因を振り返り、自分に足りない能力を把握することは、次の成長につながります。調子が悪い日もあれば、得意不得意が結果に表れることもあるでしょう。それでも毎回のように外部の条件へ責任を押しつけていては、改善すべき課題まで見えなくなってしまいます。ちぎれた経験を次の練習に生かせる人こそ、少しずつ強くなっていくのではないでしょうか。
とはいえ頭では理解していても、仲間を前にすると素直になれないのが中級ローディーの面白いところです。次こそは黙って結果を受け入れようと決意しても、実際に置いていかれると口が勝手に動いてしまいます。そして次の週末、また同じメンバーで走りに出かけ、いつもの坂で再び脱落。休憩場所で待っていた仲間から「今日は何が原因だったの?」と聞かれた本人は、少し考えてから自信満々に答えます。「いや、今日はちぎれたんじゃなくて、自分のペースを守っただけだから」。どうやら脚力が伸びるより先に、言い訳の技術だけは上級者へ昇格したようです。



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