今年2026年のツール・ド・フランスも始まって早、1週間。すでにいろんなドラマが起こり、寝不足の日々が続いております。そんなツールに触発されるよう、30度を超える猛暑日でも走りに出かけてしまいますが、今日はそんなライド前のワクワク感をエモい瞬間として取り上げてみました。
ライド、前の、儀式
休日の朝は目覚ましが鳴る前に目が覚めることがある。窓から差し込む柔らかな光を見て天気を確認し、静かな部屋で水を一杯飲む。その時点ではまだジャージにも着替えていないし、ヘルメットも玄関に置いたままだ。それでも頭の中は、もう今日のライドでいっぱいになっている。
愛車を外へ出し、フロアポンプをタイヤのバルブへ差し込む。レバーを倒し、ゆっくりとポンピングを始める。「シュッ、シュッ」という規則正しい音だけが朝の住宅街に静かに響く。ほんの数分の作業に過ぎないのに、この音を聞くと不思議なくらい気持ちが切り替わる。
空気圧の数値を確認しながらポンプを押すたびに、タイヤが少しずつ張りを取り戻していく。昨日まで部屋の隅で静かに休んでいたロードバイクが、「今日はどこへ行く?」と語りかけてくるようにも思える。
まだ一メートルも走っていない。それなのに、この時間がたまらなく好きだ。
今日の目的地を思い浮かべる人もいれば、あえて何も決めずに気の向くまま走ろうと考える人もいる。どちらにしても、ライドはペダルを踏み始めた瞬間ではなく、このポンプを握った瞬間から始まっているのだと思う。
最後にポンプを外した「プシュッ」という短い音が鳴る。タイヤを軽く押して硬さを確かめ、ホイールを少しだけ回してみる。その何気ない確認動作さえ、今日は気分が違う。
玄関へ戻り、グローブをはめ、ヘルメットを被る。サングラス越しに見える朝の景色は、ほんの十分前と何も変わっていない。それでも、自分の心だけはすっかりライドモードになっている。
思い返せば、印象に残るライドには必ず出発前の静かな時間があった。峠で見た絶景も、河川敷を吹き抜ける追い風も、美味しかった補給も、その始まりはいつも決まってフロアポンプの音だった。
だからロードバイク乗りは、あの何気ない「シュッ、シュッ」という音を聞くたびに胸が少し高鳴る。空気を入れているだけなのに、休日がようやく動き始めたことを実感できる。ライドの一日は、タイヤではなく、自分の心に空気を入れるところから始まっている。



コメント