ロードバイクで見かけるエモい瞬間 Vol.023~偶然の仲間意識~

雑記コラム

街中やサイクリングロードを走っていると、たまに同じフレームに乗ったローディーとすれ違うことがあります。お互い全く見ず知らずの他人。進行方向は真逆だし、声をかけるわけでもないのですが、どこか仲間意識が芽生えたりするものです。

よくぞ、それを、選んだ

いつものコース、走り慣れたいつもの道。ペダルを漕ぐリズムも、肺に吸い込む空気の冷たさも、すべてが日常のルーティンの中に溶け込んでいる。そんな時、前方から一人のローディーがやってくるのが見えた。

距離が縮まるにつれ、視線は自然と相手の「足元」へと向く。プロトンの中で目を引くような派手なカラーリングではない。けれど、どこか見覚えのあるフレームの造形、独特なトップチューブ。そしてダウンチューブに刻まれた、毎日磨き上げているのと同じロゴ。

「あ、自分と同じだ」

そう気付いた瞬間、心臓の鼓動が少しだけ跳ねる。相手もこちらに気付いたのだろう。わずかに上体が起き、ヘルメットの奥の視線が、こちらのフレームを真っ直ぐに射抜くのが分かった。

名前も知らない、年齢も職業も、どこから来てどこへ向かうのかも分からない赤の他人。けれど、数あるブランドの中から、数多あるモデルの中から、あえてこの一台を選び、決して安くない対価を払い、汗を流してここまで走ってきた。そのプロセスにおいて、私たちは完全に「同志」だった。

このフレームが登りで見せる軽快さも、荒れた路面での絶妙な収束感も、そして時折わがままを言う整備の難しさも。言葉を交わさずとも、私たちは同じ感覚を共有している。彼が今感じているペダルの重みは、きっと僕が知っている重みと同じはずだ。

すれ違う刹那、手はブラケットを握ったまま、ただ視線だけが交差する。 そこには「お、分かってるね」という微かな肯定と、同じ相棒を選んだ者同士の静かな誇りが混じり合っていた。ハンドサインなんていらない。互いの愛車のコンディションを見れば、どれだけこの一台を大切にしているかは一瞬で伝わるからだ。

無言のまま、視線は背後へと流れていく。振り返ることはしない。ただ、すれ違った後のペダルが、ほんの少しだけ軽くなったように感じた。

全くの他人なのに、今この瞬間だけは誰よりも深く分かり合えているような気がする。この奇妙で、潔く、少しだけ気恥ずかしさと嬉しさがあるから、僕はまた明日も、この相棒と一緒にいつものコースへ向かうのだ。

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