ロードバイクで見かけるエモい瞬間 Vol.049 ~夕飯の匂い~

雑記コラム

日も落ちかけているライド帰りの夕方。街中を走っていると、どこかの家の夕飯の匂いが漂ってくることがありますよね。そんな匂いを嗅ぐと、どうにも子どもの頃を思い出してしまいます。今日はそんな懐かしさを感じさせるライド中の匂いをエモい瞬間として書いてみました。

子どもの頃が、その臭いで、蘇る

夕方の住宅街をロードバイクで走っていると、どこからともなく夕飯の匂いが漂ってくることがある。焼き魚の香ばしい匂い、揚げ物の油の匂い、少し甘い煮物の匂い、そして妙に腹を刺激するカレーの匂い。知らない町を走っているはずなのに、その匂いを嗅いだ瞬間だけ、ずっと昔に知っていた場所へ戻ったような気持ちになる。

子どもの頃、夕方になると町には独特の空気があった。友達と遊んでいた公園から帰る時間。家へ向かって自転車を漕いでいると、あちこちの家から夕飯の匂いが流れてきた。「今日はカレーかな」「どこかの家は焼き魚だな」なんて考えながら、それぞれの家へ帰っていく。日が暮れるまで遊ぶことだけが大事だった頃の夕方だ。

ロードバイクで遠くまで走った帰り道、そんな記憶が突然よみがえることがある。見たこともない住宅街。初めて通る交差点。名前すら知らない町。それなのに窓から漏れる明かりや、家の前に置かれた子ども用の自転車、遠くから聞こえる話し声に、どこか懐かしさを感じてしまう。そこへ夕飯の匂いまで加わると、今走っている場所と昔の記憶との境目が少しだけ曖昧になる。

あの頃は、夕方になれば帰る場所が決まっていた。暗くなる前に家へ帰れば、食卓には夕飯が並んでいた。今日どこまで走ったかも、平均速度が何km/hだったかも、獲得標高がいくつだったかも関係ない。ただ遊び疲れて帰り、腹いっぱい食べる。それだけで一日は十分だった。

信号待ちで止まっていると、近くの家からカレーの匂いが流れてくる。その瞬間、ランドセルを背負っていた頃や、小さな自転車で走り回っていた頃の自分が、不意に頭の中に浮かぶ。もう何十年も前のことなのに、匂いだけは妙に鮮明に記憶を連れてくる。

やがて信号が青になり、またペダルを踏み始める。知らない町は少しずつ後ろへ遠ざかっていく。自分もそろそろ帰らなければならない。子どもの頃と違って帰宅を急かす親の声はもう聞こえない。それでも夕暮れの住宅街に漂う夕飯の匂いを感じると、心のどこかで昔と同じ声が聞こえる気がする。「もう遅いから、そろそろ帰ろう」と。

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