昨日のロードバイクと補給食~ロードレースの補給の歴史~に続き、本日も補給食に関する記事をアップしたいと思います。
今回は「現代ロードレースと補給食」をテーマに、ロードレースで勝つために何を摂取する必要があるのか?を掘り下げてみます。もう完全に趣味の記事ですね。めちゃ長いし、興味のない方には、ホント読んでも面白くも何ともない記事ですが、どうぞお付き合いくださいませ。
現代ロードレースにおける補給の基本概念
現代のロードレースにおける補給の中心は、「レース中の血糖値と筋グリコーゲンをいかに落とし過ぎないか」という炭水化物戦略です。脂質も重要なエネルギー源ではありますが、高強度でペースアップを繰り返すロードレースでは、決定的な場面のパフォーマンスを支えるのは主に炭水化物とされています。
まずレース前の段階では、24〜48時間ほどかけて十分な炭水化物をとり、筋グリコーゲンを満たしておくことが前提になります。長時間レースでは、体重1kgあたり1日あたりおおよそ6〜10g程度の炭水化物摂取が目安とされることが多く、レース当日はスタートの1〜4時間前に、体重1kgあたり1〜4g程度の炭水化物をとっておく、というガイドラインが一般的です。
レース中の炭水化物摂取量は、「競技時間」と「強度」でおおまかに整理されます。
- 運動時間が60〜150分程度の場合
1時間あたりおおよそ30〜60gの炭水化物摂取が推奨されることが多く、この範囲であれば多くの選手が消化管トラブルを起こさずにエネルギーを補給しやすいとされています。 - 150分を超えるロングレースやステージレースの山岳・クラシックなど
1時間あたりおおよそ60〜90gの炭水化物摂取がひとつの目安とされています。近年は、一部のトッププロでは100〜120g/時という高い摂取量を運用している例もありますが、これはあくまで個々のトレーニングと慣れを前提にした「実務上の運用範囲」であり、全ての選手に当てはまる標準値とはみなされていません。
この高用量摂取を支えているのが、「マルチトランスポータブル炭水化物」と呼ばれるグルコース(マルトデキストリンなど)とフルクトースの組み合わせです。グルコースだけでは小腸で利用できる輸送担体が一系統のため、酸化できる量に限界があり、1時間あたりおおよそ60g前後が上限とされてきました。これに対して、グルコースとフルクトースを組み合わせることで、別々の輸送担体を同時に使い、1時間あたり90g前後まで酸化量を高められると報告されています。
そのため、現在のスポーツドリンクやエナジージェルでは、グルコース系炭水化物とフルクトースを「2対1」前後の比率で配合した製品が主流となっています。さらに、100g/時以上を狙う一部製品では「1対0.8」前後など、より高摂取量に対応した比率が採用されるケースも見られますが、こうした高用量戦略はまだエビデンスが発展途上であり、選手ごとの慎重な試行が前提です。
ここで重要になるのが「腸トレーニング」です。高い炭水化物摂取量をレース中に受け入れるためには、日頃のトレーニング中から意図的に補給を行い、消化管を慣らしておく必要があるとされています。炭水化物の種類や濃度だけでなく、ドリンクの温度、ナトリウムやカフェインとの組み合わせ、暑さや標高といった環境要因も、胃腸トラブルの有無に影響すると整理されています。
補給の基本概念は、エネルギーだけではありません。水分と電解質、とくにナトリウムの補給も同じくらい重要です。大量に発汗する環境では、体重が大きく減少しない範囲で水分を補給しつつ、ドリンクやジェルに含まれるナトリウムで電解質バランスを保つ必要があります。炭水化物を多く摂りたいからといって、濃度の高すぎるドリンクを大量に飲むと、かえって胃がもたれてしまうこともあり、ジェル・固形食・ドリンクを組み合わせた「トータル設計」が求められます。
まとめると、現代ロードレースにおける補給の基本概念は、次のように整理できます。
- 事前のグリコーゲンローディングと、スタート前の炭水化物摂取で「満タン」にしておく
- レース時間と強度に応じて、1時間あたり30〜90gを目安に炭水化物を補給する
- グルコース+フルクトースの組み合わせによる高効率な炭水化物補給を活用する
- 日頃から腸トレーニングを行い、選手ごとに「どこまで入るか」を個別最適化する
- 水分と電解質を含めた総合的な補給設計で、パフォーマンスと安全性を両立させる
このように、現代の補給は「ただカロリーを入れる」段階を超え、科学的なガイドラインと選手ごとの実践を組み合わせた、戦術の一部として位置づけられています。
現代ロードレースにおける補給食の主成分
現代のロードレース用補給食は、「どの栄養素を、どの比率で、どの形で入れるか」を細かく設計した加工食品です。大きく分けると、主役となる炭水化物、体液バランスを保つ電解質、パフォーマンスや体感に関わる機能性成分、そしてテクスチャーや保存性・風味を整えるための食品添加物という、いくつかの層で構成されています。
まず中心になるのは炭水化物です。多くのエナジージェルや高濃度ドリンクでは、マルトデキストリンなどのグルコース系炭水化物とフルクトースを組み合わせた配合が採用されています。これは、小腸で利用できる糖の輸送経路を複数使うことで、1時間あたりに吸収・利用できる炭水化物量を増やす狙いがあります。実際の製品では、ジェル1袋あたりおおよそ20〜30グラム、より高用量タイプでは30グラムや50グラム超の炭水化物を含むものもあり、レース中の目標摂取量に合わせて選べるようになっています。
次に重要なのが電解質、とくにナトリウムです。持久系スポーツ向けに設計されたスポーツドリンクやジェルでは、汗で失われるナトリウムを補う目的で、飲料全体として1リットルあたり数百〜1000ミリグラムほどのナトリウムを含むように設計されるケースが多く見られます。ジェル単体でも、1袋あたり100〜250ミリグラム前後のナトリウムを含む製品があり、発汗の多いステージや高温環境でのレースを想定した処方になっています。ナトリウム以外にも、カリウム・マグネシウム・カルシウムなどのミネラルを組み合わせた電解質パウダーやタブレットも広く使われています。
機能性成分として代表的なのはカフェインです。持久系パフォーマンスの向上や主観的なきつさの低減、集中力維持などの目的で使われ、カフェイン入りジェルの多くは1袋あたり20〜70ミリグラム前後、一部製品では100ミリグラム前後を配合しています。選手はレース前にコーヒーや錠剤である程度カフェインを摂り、レース中はこれらのジェルで血中濃度を維持するような使い方をするケースが一般的です。
そのほかの機能性成分としては、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)、分岐鎖アミノ酸(BCAA)、カルシウムやビタミン類などを加えた製品もあります。すべての成分が直接パフォーマンスを大きく変えるわけではありませんが、エネルギー源のバリエーションを増やしたり、筋損傷からの回復を意識したりといったコンセプトで採用されることがあります。
食品としての形を整えるための成分も、現代の補給食では欠かせません。ジェル状の製品では、水をベースに、ペクチンや増粘多糖類などのゲル化剤でとろみをつけ、クエン酸などで酸味とpHを調整し、香料でフレーバーを付けます。保存料や酸化防止剤を少量加えることで、常温での保存性や安全性を確保している製品も多数あります。これらは直接「走り」に効く成分ではありませんが、飲み込みやすさや胃への負担、暑い環境での劣化耐性などに関わる重要な要素です。
近年の傾向としては、マルトデキストリンとフルクトースの比率調整による高用量炭水化物対応、ナトリウム量やミネラルバランスの微調整、カフェイン有り/無しのラインナップ分けに加え、胃腸トラブルを起こしにくい処方や、グルテンフリー・ヴィーガン対応など、成分レベルで細かくターゲットを分ける製品が増えています。
このように、現代の補給食の成分は、「どれだけエネルギーを運べるか」だけでなく、「どれだけ安全かつ快適に摂り続けられるか」まで含めて設計されており、ロードレースの長時間・高強度という条件に合わせて、細かくチューニングされた処方になっています。
主流となる補給食の種類と特徴
ロードレースの現場で用いられる補給食は、用途・タイミング・携行性などの視点から大きく複数種類に分類できます。ここでは、それらの種類が“なぜ選ばれているか”“どのような特徴があるか”という視点から概観します。
まず「液状飲料(ハイカーボロードリンク)型」です。これはペットボトルまたは専用ボトルに入れて走行中に定期的に摂取できるもので、携行しやすく水分補給と炭水化物補給を同時に満たせるのがメリットです。ロードレースでは走行ペースが高いため、舌ざわりが軽く、飲みやすい構成の製品が好まれています。近年では炭水化物濃度を上げて「1時間あたり30〜60グラム以上の炭水化物を飲料から摂る」事例も増えており、これはドリンク型の携行が簡便な点を活かしています。加えて、汗で失われるナトリウムなどのミネラルを同時配合した飲料が、夏場や長時間ステージで特に重宝されています。
次に「咀嚼可能な固形補給食(バー/スナック)型」です。これは走行中に走りながら食べられる携行用食品で、液状飲料に比べて噛む動作が必要なため負荷が多少高くなりますが、噛むことで満腹感や口のリフレッシュが得られる点が強みです。特に長時間のステージやバイクパッキング的な走行では、一定量の脂質やたんぱく質を含むバータイプが「走るための補給」だけでなく「走りながらの軽食」として機能しており、糖だけではない“持続性”を求める場面で選ばれています。食べ応えがあり、味や食感のバリエーションも豊富になってきており、携行性と食べやすさを両立した設計になっています。
その他、「咀嚼/噛まずに摂れるチューブタイプ・パウダー混合補給食」も広まりつつあります。これはジェルほど粘度が高くないもの、また粉末を水で溶かすタイプで、飲料と食品の中間的なカテゴリと言えます。こうしたタイプは「滑らかに摂れる」「咀嚼動作を最小限にできる」ことを重視する場面、たとえば疲労が蓄積した終盤や胃腸への負担を軽くしたい場面で役立っています。携帯性・速飲性・消化操作性の観点から進化しており、選手・チームの中では「状況によって飲み替える補給パターン」の一部として定着しつつあります。
また「自然系・リアルフード補給」も注目されています。高加工食品ではなく、デーツ・バナナ・芋類・クラッカー系など、“より本物の食材”に近い補給食が、携行されることが増えています。これは「味が変わる」「甘みに飽きる」「長時間走るうえで口の中をリセットしたい」という心理的・生理的な背景からで、固形補給食の補完的選択肢として使われています。選手・スタッフの報告では、特に100キロを超えるグランフォンドやツール形式のステージでは、こうした“気分変え・口直し用”の補給が食欲低下や消化器症状軽減に一役買っているとされています。
これらの補給食種類には、それぞれメリット・デメリットがあり、選択基準としては「走行時間/強度」「携行・摂取のしやすさ」「消化器への負担」「味・飽き耐性」「価格と入手性」などが挙げられます。例えば、短時間・高強度ステージでは飲料/ジェルタイプが優位ですが、長時間低〜中強度走行では固形バーやリアルフードが有効です。さらに、気温・湿度・胃腸のコンディション(選手個人差)も「どのタイプをいつ使うか」を左右する要因です。
以上のように、「主流となる補給食の種類と特徴」を整理すると、液状飲料型、固形バー・スナック型、咀嚼/溶解型ハイブリッド、リアルフード代替型という四つのカテゴリーが現代ロードレースで用いられており、それぞれに明確な使用シーンと設計思想が存在しています。
①エナジージェル
エナジージェルは、ロードレースにおける補給手段の中でも最も広く使われている形式のひとつです。最大の特徴は、素早く吸収される炭水化物を、高密度かつ携行しやすい形で摂取できる点にあります。多くの製品はマルトデキストリンなどを主成分とし、フルクトースを組み合わせることで、レース中の高い炭水化物需要に対応できるよう設計されています。
市場で一般的に流通しているジェルは、1袋あたり20〜30グラム前後の炭水化物を含むタイプが主流です。また、近年は1袋で30グラム以上、あるいは50グラムを超える高濃度タイプも増えており、長時間レースや1時間あたりの摂取量が多い選手に向けた選択肢が整っています。こうした製品は、選手が目標とする“1時間あたりの炭水化物摂取量”に合わせて使い分けられています。
ジェルの利点は、片手で開けてそのまま摂取できる即応性に加え、胃腸での消化準備が比較的少なく済む点にもあります。レース中は強度が高いため、固形物の消化が負担になる場面も多く、特に登坂区間やアタック合戦が続く局面では、咀嚼不要のジェルが適しています。また、甘味・粘度・塩味のバリエーションが多く、選手が味の飽きを避けるために複数フレーバーを使い分けることも珍しくありません。
多くのジェルにはナトリウムが添加されており、1袋あたり100〜250ミリグラム前後の範囲で設計されている製品が一般的です。これは汗で失われる電解質を部分的に補う意図があります。また、カフェイン入りのジェルも広く普及しており、1袋あたり20〜70ミリグラム、あるいはそれ以上の配合量のものも存在します。これにより、レース中盤〜終盤の集中力維持や疲労感の軽減を狙う戦略が実践されています。
一方で、ジェルには注意点もあります。高濃度の糖質を含むため、水分と併せて摂ることが前提となります。水と一緒に流し込まないと、胃内で粘度が高くなり消化負担が生じる可能性があるため、選手はジェルのタイミングを“ボトルが手元にある区間”に合わせる習慣があります。また、ジェルの摂取量を増やすほど、個人差による胃腸トラブルが生じやすくなるため、日頃からの「腸トレーニング」も必要とされています。
エナジージェルは、「高強度+即効性」というロードレースの要求」に最も適合した補給手段であり、プロ・アマ問わず中心的な位置づけにある補給形態です。レース強度、気温、摂取タイミングに応じて使い方を最適化することで、本来の効果を最大限引き出すことができます。
②エナジーバー/固形補給食
エナジーバーや固形補給食は、ロードレースにおける補給手段の中でも、噛んで食べるという点に特徴があります。ジェルやドリンクに比べると摂取に時間はかかりますが、一定の食べ応えがあり、長時間走行で起こりやすい甘味の飽和感を和らげる目的で広く用いられています。
一般的なエナジーバーは炭水化物を中心にして構成されており、製品によっては脂質やたんぱく質が少量含まれるものもあります。これにより、即効性はジェルほど高くないものの、比較的ゆっくりとしたエネルギー供給が期待でき、満腹感を得やすいという利点があります。そのため、レース序盤や中盤など、強度が比較的落ち着いている区間で選ばれることが多いです。
食感や硬さは製品によって大きく異なり、柔らかく噛みやすいタイプから、シリアルやナッツを固めたタイプまで幅があります。プロ選手の場合は、走行中でもちぎりやすく、口に入れやすい柔らかめのタイプが実用性の面から選ばれる傾向があります。また、甘味系だけでなく、チョコレート系、ベリー系、塩味を加えたタイプなど味のバリエーションが豊富で、長時間レースでありがちな味の単調さを避ける役割もあります。
固形補給食は、ジェルに比べて胃の中での滞留時間が長くなりやすいため、ペースが速い区間やレース強度が急に上がるタイミングでは摂取が難しい場合があります。そのため、選手は集団の速度が安定している区間、下り基調、向かい風でペースが落ちている区間など、余裕のあるタイミングを選んで食べるようにしています。
エナジーバーに含まれるナトリウム量は製品によって幅があり、ジェルのように一定の基準に寄せて設計されているわけではありません。電解質補給というより、主に固形のエネルギー源として位置づけられており、水分補給は別途ボトルで行うことが前提になっています。固形物は口の中で水分を奪うため、実際のレースでは水と併せて摂取することが一般的です。
また、市販品だけでなく、チームが用意するライスケーキやサンドイッチのような簡易的な実食タイプの補給食も広く使われています。これらは味の変化や食感の違いを提供し、長時間のレースで起こりがちな食欲低下を防ぐ役割があります。
エナジーバーや固形補給食は、強度が比較的落ち着いた場面でのエネルギー補給に適しており、ジェルやドリンクと組み合わせることで、補給計画に幅を持たせる手段として現代のロードレースで定着しています。
③炭水化物主体のドリンク
炭水化物主体のドリンクは、ロードレースにおける補給手段の中でも、エネルギーと水分を同時に補給できる点で重要な位置づけにあります。一般的な製品はマルトデキストリンなどのグルコース系炭水化物を中心に構成され、そこにフルクトースを組み合わせることで、走行中でも効率よく吸収されるように設計されています。この配合により、強度の高い状況でも消化負担を軽減しながら炭水化物を取り込みやすくなっています。
粉末を水に溶かして使用するタイプが主流であり、濃度を用途に合わせて調整できる点が特徴です。一般的な濃度では、1リットルあたり数十グラムの炭水化物を含む設計が多く、長時間の走行時に安定したエネルギー供給を行う目的で使われています。また、近年は高濃度で多量の炭水化物を補給できるドリンクも普及しており、選手がレース中に必要とする炭水化物量に応じて調整しやすくなっています。濃度が高いほど胃腸への負担が増えることがあるため、選手は自身の耐性やレース強度に合わせて濃度を選択しています。
炭水化物ドリンクには、汗で失われる電解質、とくにナトリウムが配合されていることが一般的です。これは水分吸収を助け、体液バランスを維持するために重要な要素であり、高温環境や発汗量の多いステージで特に役立ちます。ロードレースでは、炭水化物と電解質を同時に摂取できる点が実際的なメリットになっています。
このタイプの補給の利点は、咀嚼を必要とせず、強度が高い局面でもボトル操作だけで摂取できる取り回しの良さにあります。ジェルや固形補給食のように摂取に手間がかからないため、集団走行中やコーナーが続く区間でも安定して補給できます。また、味のバリエーションが豊富で、長時間摂取による味の飽和を避けやすい点も特長です。
一方で、ドリンクに頼りすぎて炭水化物濃度が過度に高くなると、胃の不快感や吸収の遅れが生じる場合があります。そのため、選手やチームは、ドリンク、ジェル、固形補給食を組み合わせながら、総炭水化物量と水分量のバランスを調整しています。気温やレース強度によって必要な水分量が変化するため、ドリンクは状況に応じて補給戦略を柔軟に組み立てる際にも活用されています。
炭水化物主体のドリンクは、ロードレースの長時間かつ高強度という競技特性に適した補給手段であり、現代の補給計画における基盤として広く活用されています。
④電解質補給とミネラル
電解質補給は、ロードレースにおける補給計画の中でも非常に重要な位置を占めています。長時間のレースでは大量の汗が失われ、体内のナトリウムやカリウム、マグネシウムなどが減少していきます。特にナトリウムは、体液バランスの維持や神経・筋の働きに関わるため、適切に補給することがパフォーマンスの安定につながります。
市販のスポーツドリンクや電解質タブレットでは、主にナトリウムが一定量含まれるように設計されています。ロードレースでは発汗量が多い場面が頻繁に発生するため、ドリンクやジェルに数百ミリグラムのナトリウムが配合されている製品が広く使われています。これは脱水の進行を抑え、水分吸収を助ける目的があります。また、選手は気温や湿度の高いレースでは、より多くの電解質を含むドリンクやタブレットを選ぶ傾向があります。
電解質補給では、ナトリウムに加えてカリウム、マグネシウム、カルシウムといったミネラルも重要です。これらは筋収縮や神経伝達に関わっており、不足すると筋痙攣やパフォーマンス低下につながる可能性があります。製品によって含有量は異なりますが、複数のミネラルを組み合わせた電解質パウダーやタブレットが普及しているのはこの理由によるものです。
電解質補給は、炭水化物補給と異なり、明確な「摂取量の統一基準」が選手全体に共通しているわけではありません。発汗量は個人差や天候によって大きく変わるため、各選手が自分の発汗傾向やレース条件に合わせて調整しています。チームによっては、事前に体重変化を測定して「どれだけ汗を失いやすいか」を把握し、そのデータをもとに電解質量を決める方法も実践されています。
電解質は単独で摂取されるだけでなく、ジェルやドリンクと組み合わせて補給されることが一般的です。固形補給食ではナトリウム量が少ない場合が多いため、固形物を食べるタイミングでは水分と電解質を別途補う調整が必要になります。特に夏場や山岳ステージでは、発汗量が非常に多くなることから、電解質濃度を高めたドリンクをメインに使用するケースもあります。
電解質補給とミネラルの管理は、単なる水分補給の一部ではなく、長時間のパフォーマンス維持と安全確保に直結する要素です。ロードレースでは、炭水化物と並んで欠かせない補給の柱として位置づけられています。
補給食の最新トレンド
近年のロードレース用補給食では、マルトデキストリンとフルクトースを組み合わせた炭水化物設計が主流となっており、その比率や濃度が年々最適化されています。この流れは、長時間の高強度運動における炭水化物吸収量の限界が科学的に整理され、実践現場で広く取り入れられたことに由来しています。
従来、単独のグルコース系炭水化物では、小腸の輸送担体の制限により、1時間あたりの吸収量に明確な上限がありました。そのため、以前は60グラム前後が実質的上限とされていました。しかし、グルコース系炭水化物とフルクトースを組み合わせることで、異なる輸送経路を同時に使えることが明らかになり、より多くの炭水化物を効率よく吸収できるようになりました。
現在一般的に採用されている比率は、マルトデキストリンとフルクトースの比が2対1前後のものです。この比率は、1時間あたり60から90グラムの炭水化物摂取を目指す場合に適しており、多くの市販ジェルやドリンクがこの範囲を採用しています。また、高用量摂取を前提とする製品では、1対0.8前後に設定された比率も見られます。これは、90グラムを超える摂取量を狙う選手向けに設計されているケースです。
濃度面のトレンドとしては、1袋で30グラムを超えるジェルや、1ボトルで高濃度の炭水化物を摂れる粉末飲料が増えています。以前は1袋あたり20から30グラム程度が一般的でしたが、近年は40グラム以上、さらには50グラムを超える製品も登場しており、高濃度化が明確に進んでいます。これにより、選手は摂取回数を減らしながら必要な量を確保しやすくなっています。
一方で、高濃度の炭水化物を摂取するためには、日頃からの「腸トレーニング」が不可欠である点も周知されています。高用量の炭水化物は、消化管への負担が増えやすく、個人差によって胃腸トラブルが起こる可能性があるため、トレーニング中に定期的に摂取して慣らす取り組みが広く取られています。
また、味や粘度の改良も進んでいます。従来の高濃度ジェルは粘度が高く飲みにくいという課題がありましたが、近年は水分量の調整やゲル化技術の改良により、スムーズに飲み込める設計が増えています。甘味疲れを防ぐために塩味や柑橘系など、フレーバーの幅が広がっている点も特徴です。
このように、現代の補給食では、マルトデキストリンとフルクトースの比率最適化、高濃度化、消化性の改善、味の多様化といった複数の方向で進化が進んでいます。ロードレースの高強度化と長時間化に合わせて、補給食そのものが競技成績を支える科学的なツールへと発展していると言えます。
補給食の携行方法と供給メカニズム
ロードレースでは、どんな補給食を選ぶかと同じくらい、「それをどう持ち運び、どのタイミングで選手に渡すか」が重要になります。補給はレース中に突然発生するのではなく、スタート前の準備段階から「どこで何を受け取るか」を細かく設計したうえで運用されています。
まず大枠として、補給の経路は三つのレイヤーに分けて考えられています。
一つ目は「選手自身が身体に携行する分」です。スタート時点で、ジャージの背面ポケットやボトルケージに補給食とドリンクをあらかじめセットしておきます。これがレース序盤の主なエネルギー源になります。ジャージ背面に三つのポケットが設けられているデザインが多いのは、この携行を前提とした構造によるものです。
二つ目は「レースコース上に設けられた公式の補給ポイント」です。ワンデーレースやステージレースでは、主催者が定めるフィードゾーンが設定されており、チームスタッフがここに待機して補給バッグやボトルを選手に手渡します。選手はレースブリーフィングなどであらかじめ場所を共有されており、その地点に向けて補給の残量を調整しながら走行します。フィードゾーンは安全面を考慮して、比較的道路幅が広く速度が落ち着きやすい区間に置かれることが一般的です。
三つ目は「チームカーによる補給」です。ステージレースや大規模レースでは、チームカーがレース隊列の後方に並び、必要に応じて選手を呼び寄せてボトルや補給食を受け渡します。選手はコミッセールカーの許可を得て車列後方に下がり、監督やソワニエから補給を受ける形になります。ここで受け取った補給食は、再びジャージポケットやボトルケージに移され、中盤以降のエネルギー源として使われます。
供給メカニズムの前提として、UCI規則で「補給が認められる区間」と「安全確保のために補給が制限される区間」が定められている点も重要です。スタート直後やフィニッシュ前の一定区間、危険な下りやテクニカルなセクションなどでは、補給行為が制限されたり禁止されたりします。そのため、チームはレースプロファイルと規則を踏まえて、「どの区間で補給ができるか」「どの区間は補給なしで乗り切る必要があるか」を事前に整理しています。
補給を実務として支えるのは、チームのソワニエやメカニック、監督です。レース前には選手ごとに必要量を見積もり、補給バッグやボトルを人数分以上準備します。レース中は、フィードゾーンに立つスタッフとチームカー内のスタッフが連携し、選手の残量や天候、展開に応じて追加の補給を用意します。暑さが厳しい日にはドリンクの本数を増やしたり、山岳ステージでは軽量な補給を中心にするなど、ステージごとに中身と量が調整されます。
また、近年はレースのテレビ中継やチームの公式コンテンツを通じて、補給の様子が公開される機会が増えています。その中で、選手がスタート前からジャージポケットに複数の補給食を入れていること、決められた補給ポイントでスタッフからバッグやボトルを受け取り、そこからポケットに詰め直していること、チームカーに下がって追加の補給を受けることなどが具体的に見て取れます。こうした映像やチームの説明からも、補給が「選手だけで完結するものではなく、チーム全体のオペレーションとして機能している」ことが確認できます。
ロードレースの補給は、選手の携行分、フィードゾーンでの受け渡し、チームカーからの供給という複数の経路を組み合わせ、ルールと安全面を踏まえて運用されています。
ミュゼット(サコッシュ)
ミュゼットは、ロードレースにおいて補給食やボトルを選手に渡すための専用バッグとして使われています。素材は軽量な布地で、肩から掛けた状態で素早く受け渡せるよう、薄く平たい形状になっています。一般的には、片側に長いストラップが付いたシンプルな構造で、選手が走りながら手元で掴みやすいように設計されています。
レースでは、フィードゾーンと呼ばれる公式の補給ポイントで、チームスタッフがミュゼットを手に掲げ、選手に渡します。選手は速度を落としながらスタッフの横を通過し、走行の勢いを保ったままミュゼットを受け取ります。安全性確保のため、フィードゾーンは道路幅が広く比較的穏やかな区間に設定されるのが一般的です。
ミュゼットの中身は、レースの距離や気温、選手の補給計画によって構成が変わります。一般的な例としては、エナジージェル数個、エナジーバーなどの固形補給食、補給用のボトル、場合によってはカフェイン入り製品や塩分補給用の食品などが詰められています。暑い日には冷えたボトルを多めに入れたり、山岳ステージでは軽量な補給を優先するなど、ステージごとに調整されています。
選手はミュゼットを受け取った後、走行しながら中身をジャージの背面ポケットに移し替えます。必要なものだけを取り出したら、空になったミュゼットは邪魔にならないよう落とします。ミュゼットを地面に捨てる行為は、ロードレースの運用では一般的で、レース後にスタッフが回収するか、主催者側で清掃が行われます。
ミュゼットは補給を運ぶための道具であると同時に、レース運営の安全性と効率性を支える役割も果たしています。選手が必要な補給を確実に受け取るための手段として、現在のロードレースでも欠かせない存在となっています。
チームカー補給
チームカー補給は、ロードレース中盤以降に多く行われる補給方法で、チームスタッフが乗るサポートカーからボトルや補給食を直接受け取る方式です。選手が不足している補給を随時補うための手段であり、レース展開や天候に応じて柔軟に運用されています。
レースでは、各チームの車両が隊列の後方に並び、コミッセール(審判)が状況に応じて補給の許可を出します。選手は補給を受けたいときに、審判車の確認を経て車列後方に下がり、自チームの車に近づきます。安全確保のため、補給が許可されない区間が設けられることもあり、下り坂やフィニッシュ前など特定の場面ではチームカー補給は禁止されます。
補給は、助手席や後部座席に乗るスタッフが行います。選手が車の左側に寄せ、スタッフが窓から腕を伸ばしてボトルや補給食を渡します。ボトルは選手が握りやすいよう首の部分を持って差し出し、ジェルやエナジーバーはまとめて束ねて渡されることが多いです。複数の補給を一度に受け取る場合は、選手がジャージの背面ポケットに素早く詰め込みます。
チームカー補給の内容は、ボトル、ジェル、バー、電解質入りの飲料、気温に応じて冷えたボトルなどが一般的です。暑い日のステージでは、氷入りのボトルが渡されることもあります。逆に寒い日には温かい飲み物を入れたボトルを用意するチームもあります。選手の状態やレース展開によって必要な補給が変わるため、チームは常に複数の種類を車内に準備しています。
チームカー補給は、選手とスタッフの連携が特に重要な場面でもあります。選手がどのタイミングで補給を受けに来るか、どれだけ残量があるかを車内で把握し、適切な補給を迅速に渡す必要があります。また、チームカーはレース隊列の後方に位置するため、選手が車列まで戻る際には集団への復帰が難しくなる可能性があり、そのリスクを理解したうえでタイミングを判断しています。
チームカー補給は、公式のフィードゾーンでは補いきれない細かな補給需要を支える、ロードレースに不可欠な補給手段となっています。
プロチームの補給戦略
プロフェッショナルチームにおいて、補給戦略は単なる「補給物を持って走る」段階を超え、科学的な設計・個別最適化・実行管理という三段階で構築されています。まず設計段階では、レースの種別(ワンデー、ステージレース)、ステージプロファイル(平坦、山岳、タイムトライアル)、天候(気温・湿度)を踏まえ、選手一人ひとりの体重・発汗量・消化耐性を考慮して、1時間あたりの炭水化物目標量やドリンクの電解質設計、携行補給の回数と配置を決定します。プロチームでは一部、ステージごとに目標摂取炭水化物量を600~700グラム以上とする日もあります。
次に個別最適化段階では、選手の過去データ(体重変化、発汗量、補給実施量、胃腸トラブルの有無など)をもとに、どの補給フォーマット(飲料、ジェル、バー)をどのタイミングで使用するかをカスタマイズします。あるチームでは、レース中に1時間あたり90グラム以上の炭水化物を目指し、走行前の胃腸トレーニングも実施しています。さらに、補給回数や携行方法(背面ポケット、ボトル、ミュゼット、チームカー受け取りなど)まで選手ごとに細かく設定されています。
最後に実行管理段階では、レース中の状況変化に即応する体制が敷かれています。選手の現在の余力、集団状況、気温・湿度・展開(逃げ/追走/集団スプリント)に応じて、チームカーあるいはフィードゾーンでの補給プランを変更できる運用が一般的です。例えば、山岳ステージで気温が予想より高い場合、想定より多くのドリンクと電解質ボトルを運用し、予定以上の補給回数としています。さらに、毎朝の体重測定や尿比重測定などで出走前のコンディションを確認し、補給戦略を微調整するチームも確認されています。
補給戦略において特筆すべき点として、回復のための補給設計が一段と強化されていることが挙げられます。ステージレースでは翌日のパフォーマンスに直結するため、レース直後の数十分間が「ゴール直後の回復ウィンドウ」として位置づけられています。この時間帯に高比率の炭水化物・たんぱく質・電解質を摂取させることで、筋グリコーゲン再合成と筋損傷修復を促進する構えです。あるワールドツアーチームでは、ゴール直後のバス車内で既定量の回復ドリンクを選手に供給し、その後夕食までの間に回復用低繊維メニューを統一して提供しています。
このように、プロチームの補給戦略は「目的を明確にした設計」「選手に即した個別最適化」「レース中・レース後を通じた実行管理」という構造をもって運用されており、現在では単なる“補給を持ち込む”段階から“補給を戦略的に活用する”段階へ進化しています。
安全性とルール:補給に関する規定
補給に関しては、選手の安全と公平性を確保するため、規則的な整備が進んでいます。主に認知されているものとして、補給が許可される「フィードゾーン(補給ゾーン)」の設置義務や、補給を行うスタッフ・チーム車両の運用に関する規定があります。
まず、フィードゾーンの設置についてです。国際自転車競技連合(UCI)は、ロードレースにおいて補給用のフィードゾーンをおおよそ30〜40キロメートル毎に配置することを義務づけています。この配置には、選手が走行中に補給を確実に受けられるようにするという目的が含まれています。フィードゾーン以外の区間で、チームスタッフが選手に補給を手渡すことは原則として制限されています。これによりレース展開において安全性が向上するとともに、補給機会の公平化が図られています。
次に、補給行為を行うチームスタッフ・車両に関しても規定があります。補給を行うスタッフはライセンスを所持し、チームウェアを着用していることが求められています。また、チームカーからの補給やミュゼット(サコッシュ)による手渡し時には、定められた補給ゾーン内で、かつ安全に受け渡しが可能な状態であることが前提となっています。安全を確保するため、補給操作中に速度が落ちすぎる、車列が乱れるなど、走行に支障を来すと判断された場合にはペナルティ対象となる可能性があります。
また、補給に伴う廃棄物(空ボトル、ミュゼットなど)に関しても運営側のルールがあります。フィードゾーンでは、ボトルや包装袋などの投棄が許されることが多いですが、レースルートの他区間では投棄禁止もしくは回収義務が課されており、環境保護と安全確保を目的としています。主催者は「グリーンゾーン」と呼ばれるごみ投棄専用区画を設定することが推奨されており、選手が補給物を投げ捨てる位置・タイミングを極力安全な範囲に収めるための取り組みが実施されています。
さらに、補給に関連して事故・危険発生のデータが収集され、規則改正の根拠となっています。例として、補給ゾーンでの車両・スタッフの交錯や、サポート車両の通過位置、選手の動線が原因となった事故・接触事例が分析され、より安全な補給環境を整備するためのガイドライン改定が進んでいます。補給における危険因子として、速度が出たままボトルを受け渡すこと、車道が狭くて車列・選手・スタッフの距離が近すぎることなどが挙げられ、その回避策として補給ゾーンの設計や配置変更が検討されています。
以上のように、ロードレースにおける補給は、ただ「物を渡す/受け取る」だけでなく、安全性、運営効率、公平性を担保するために明確なルールが設定されており、さらにそれらの適用がレース現場で強化されています。補給戦略を検討する際には、これらの規定を踏まえて準備することが不可欠です。
現場が語る補給のリアル
ロードレースの現場では、補給は理論上のガイドラインだけでは語り切れない、かなり踏み込んだ実務として扱われています。ワールドツアーチームの栄養士や選手が公表しているデータやインタビューからは、その実態が具体的な数値とともに示されています。
近年の大きな変化として、レース中の炭水化物摂取量の高用量化があります。ワールドツアーの選手が、きつい山岳ステージでは1時間あたりおよそ120グラム、比較的楽なステージでも60〜90グラムの炭水化物摂取を目標にしていると説明している事例があります。また別のチームでは、ツール・ド・フランス級のステージで、1時間あたりおよそ120グラム前後をバー、ジェル、ドリンクの組み合わせで摂っていることが明言されています。
一日のトータル摂取量も非常に多くなっています。ツール・ド・フランスの選手を対象にしたケーススタディでは、山岳ステージを含むグランツール期間中、1日あたりの炭水化物摂取量が平均で800グラム台、最もハードな日は1100グラム前後に達していたことが報告されています。また別の事例では、あるワールドツアー選手が1日で1245グラムの炭水化物を摂取した具体的な内訳が示されており、ボトル、ジェル、バー、固形食を組み合わせて摂取していたことが紹介されています。
こうした高用量戦略は、選手ごとの差を踏まえたうえで運用されています。エリートサイクリストを対象とした新しいテストでは、1時間あたり180グラムの炭水化物を実際に酸化できる選手もいれば、同じ量を摂取しても利用率がかなり低い選手もいることが示されています。この結果を受けて、現場では「とにかく量を増やせばよい」という発想ではなく、選手ごとの酸化能力や胃腸の耐性を見極めて摂取量を決める方向に進んでいます。
スタート前の食事設計についても、具体的な数値が出されています。ツール・ド・フランスの山岳ステージに向けて、出走約4時間前に体重1キログラムあたりおよそ3.5グラムの炭水化物を朝食で摂る例が紹介されています。ワールドツアーチームの栄養士の解説では、レース前日の夕食、当日の朝食、スタート直前のスナック、レース中、レース後までを一つの流れとして設計し、一日単位で必要な炭水化物量を管理していることが繰り返し説明されています。
食事内容の面では、「何を入れるか」と同じくらい「何を減らすか」も重視されています。山岳ステージの食事について、ハードな日は消化を速くするために意識的に食物繊維を減らすと説明している栄養担当者もいます。グランツールの食事例としては、朝食で消化しやすいオートミールや白米を中心にし、野菜の量や種類を調整して胃腸への負担を抑える工夫が紹介されています。
現場で共通して語られているキーワードが「腸トレーニング」です。ツール・ド・フランスを走るチームの公式な解説では、レース中に1時間あたり120グラムの炭水化物を入れるため、シーズンを通して高糖質飲料やジェルを使ったトレーニングを継続し、消化管の耐性を高めていることが説明されています。先述のテスト結果も踏まえ、プロ選手であっても高用量が常に正解とは限らないという認識が広がっており、個々の許容量を見極めることが重要視されています。
このように、現場で語られている補給の姿は、炭水化物摂取量の大幅な増加、選手ごとの酸化能力と耐性に合わせたパーソナライズ、スタート前からレース後までを通した一日単位の設計、腸トレーニングや食物繊維制限といった実務的な工夫が組み合わさったものになっています。理論的な推奨値だけではなく、実際のレースデータと選手の体調を照らし合わせながら、その都度調整している点が、現在の補給のリアルな姿と言えます。
まとめ:現代補給は「科学 × 実践」の最前線
現代のロードレースにおける補給は、感覚や経験だけに頼る段階をすでに終えており、研究データと実測値に基づく「設計」と、レース現場での「運用」が一体となった領域になっています。レース前からレース中、レース後までを通して、炭水化物、水分、電解質、カフェインなどをどう組み合わせるかが、明確な数値目標とともに管理されるようになっています。
炭水化物については、運動時間に応じて1時間あたりの目安量が整理され、その範囲の上限を押し上げる形で、マルトデキストリンとフルクトースを組み合わせた補給食が標準化しています。エナジージェル、エナジーバー、炭水化物ドリンクといったフォーマットは、それぞれの特性に合わせて役割分担が明確になっており、「どのタイミングでどの形を使うか」という設計がプロの現場では当たり前になっています。
一方で、こうした数値目標は選手全員に同じように適用されているわけではありません。実際のテストやレースデータから、炭水化物の酸化能力や胃腸の耐性には大きな個人差があることが示されており、高用量の戦略ほど「腸トレーニング」を含めた個別最適化が重視されています。理論上の上限値よりも、各選手が無理なく継続できるラインを見極めることが、現場の実務として重要視されています。
水分と電解質についても、発汗量や気温、ステージプロフィールに応じてボトルの中身や本数が細かく調整されています。フィードゾーンやチームカー補給のルール、安全面の制約を踏まえながら、どこでどれだけの補給を受け取るかがチーム単位で設計され、その枠の中で選手個々の好みや耐性が反映されています。補給は選手個人の問題ではなく、チームオペレーションの一部として扱われています。
さらに、レース直後の回復補給まで含めた「一日単位の設計」も、トップレベルでは一般的になっています。レース中の高用量摂取を支えるために、前日の夕食や当日の朝食で繊維量を調整したり、消化の速い炭水化物を中心に組み立てたりする実務が、複数のチームから具体的な例として示されています。
このような背景から、現代のロードレース補給は、研究で示された理論値と、選手ごとの身体的特性・レース展開・環境条件を突き合わせながら微調整される、きわめて実務的で動的な領域になっていると言えます。補給はもはや「お腹が減ったから食べるもの」ではなく、「勝つために組み立てる戦略」の一部として位置づけられており、その最前線では科学と現場の知見が常に更新され続けています。



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