ロードバイクで見かけるエモい瞬間。今回は今までで一番エモい瞬間だったかもしれません。誰でも初心者の頃はパンク修理に手こずりますよね。そんな困っていたおじさんを助ける若いローディー。そんなひとコマが今日もエモい瞬間です。
河川敷での、見知らぬ、優しさ
穏やかな午後の河川敷サイクリングロード。私はベンチに座り、ぼんやりと流れゆく雲を眺めていた。耳に届くのは、風のささやきと、時折通り過ぎる自転車のチェーン音。そんな静かな午後の風景に、対岸でふと、慌ただしい動きをする人影が目に入った。
それは、どう見てもロードバイク初心者の、小柄なおじさんだった。愛用のロードバイクをひっくり返し、汗だくになりながらパンク修理に四苦八苦している。タイヤレバーは使い慣れない手つきで滑り、新しいチューブは空気入れの度にフニャフニャと頼りなく膨らむだけ。何度も何度も繰り返すその姿は、まるで陽炎のように、少しばかり切なく見えた。
諦めかけたその時、一台のロードバイクが颯爽と滑り込んできた。しなやかなフォームで停まったのは、私より少し若いくらいの、いかにも乗り慣れたローディーの男性だ。「大丈夫ですか?」—その一言は、暑さに疲弊したおじさんにとって、どれほどの救いだっただろう。男性は手際よく工具を取り出し、迷うことなくタイヤを外し、新しいチューブをセットし、あっという間にパンクを修理し終えた。
「本当に助かりました。ありがとうございます!」
おじさんは、深々と頭を下げ、何度もお礼を繰り返している。その声は、安堵と感謝に震えていた。男性は「お気をつけて」とだけ言い残し、笑顔で再びペダルを漕ぎ出した。あっという間に小さくなる後ろ姿に、おじさんはいつまでも手を振っていた。
対岸で見ていた私の胸にも、温かいものが込み上げてきた。ロードバイクという趣味を通じて、見知らぬ人同士が手を差し伸べ、心を通わせる瞬間。この美しい連帯こそが、私たちがペダルを回し続ける理由の一つなのかもしれない。あの河川敷の午後、確かに私は「エモい」瞬間を目撃したのだ。



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